2004年09月03日(金) 赤い糸よ、さらば。
 

9/2からの連載になっています。まずは2日の「赤い糸のあなたとわたし」からご覧ください。


「こんなばかな話があってたまるか。」

おれは左手の小指に絡まりついている
それを見てつぶやいた。
それって。赤い糸である。

ことの始まりは今日の朝。
目玉焼きにかけようと醤油に手を伸ばした瞬間
それが見えるようになったのである。
それって。赤い糸である。

(うーむ…。)

正直とても邪魔くさい。
そしてとても鬱陶しかった。
おれはもともと弱気な性格のせいで、人生でだいぶ損をしてきた。
欲しかったものを人に頼まれ、惜しみながらもゆずったり。
頼まれたら嫌だと言えない性格だった。

でも今回だけはすっぱりざっぱり言ってしまおう。
はっきり言って運命の人までも誰かに決められるのは嫌だ。

おれは試しに鋏で赤い糸を切ってみる。
けれど赤い糸は、針金のようにかちかちで傷が入ったのは鋏のほうだった。

「さすが。手ごわいな。」

次に熱で溶かすことにした。
台所でじゅーっと炙ってみる。
なにやらいい匂いがしたかと思うとどろりと溶けた。
しかし、粘ついた納豆のように糸を引きながら相変わらず指にくっついていた。

気持ち悪い。
これは本当に気持ち悪い。

仕方がない。
おれは腹をくくって赤い糸の相手から逃げることにした。
糸のつながった反対方向へ逃げれば会うことはないだろう。

今に見てろ赤い糸。
運命なんて自分の力で壊してみせる。
愛する人くらいおれは自分で探せるのだ。

「さよなら、顔も見ぬ運命のひとよ。」

格好良く決めて、おれは旅立った。
運命から逃れるために。





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