物心ついたとき、突如自分の左小指に赤い糸がぶら下がっているのが見えはじめた。 赤い糸はとてつもなく長く、遠くなるにつれ透明になっていた。 だからわたしはその赤い糸がどこにつながっているのか 今でも分からない。
赤い糸は毛糸のように柔らかく太い糸ではなく たこ糸のようなものだった。 寒くなると針金のようにカチカチになったり 夏になると腐れたのか糸を引いたり(気持ち悪い。) とてつもなく変な糸だった。
他人には見えないものの、気になるので何度か鋏で切ろうと試みたが 赤い糸には傷ひとつ入らなかった。 そのうちわたしは諦めて、赤い糸とともに生活をするようになった。
何度か、恋人だっていた。 残念なことにその人とわたしの赤い糸は繋がっていなかった。 わたしは残念だと思うとともにいつもほっとした。 別れるたび「運命の人は他にいるんだから仕方がない」と自分に言い聞かせた。 思えば、そこまで好きではなかったのかもしれない。
とある人に恋をしたことで、わたしの運命はがらりと変わった。 死ぬほど好きだと思った。これ以上ないほど愛していた。 けれどわたしと彼の赤い糸は繋がっていなかった。 そして彼の浮気とともにわたしたちは別れた。
3日前の話である。
いい度胸じゃないか。赤い糸よ。 そこまでわたしの恋路を邪魔するなら 運命の人とやらを、自分で探し出してみせようとも。
そうして、わたしは赤い糸が続く先へと向かうことになった。
「今に見てろよ糸野郎!」
果てしなく長く伸びている糸の先。 たぶん、運命の人のもとへ。
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