旅に出て13ヶ月と26日目。 わたしはふと、母を思った。
気づけばもう13ヶ月もたっていた。 そこでわたしはレターケースと黒のボールペンを買った。 今まで出会った幸せを書いて送ろう。 わたしが感じた、あらゆる形の幸せを わたしだけではなく、母にも。
「おひさしぶりです。」 「こんにちは。」 「お元気ですか。」 「拝啓。」
けれど手紙を書こうとするたび何を書いていいのか分からなくなって わたしはピリピリと手紙を破った。 違う。きっと文字にはできない。
そしてわたしは知っていた。 何が母の一番の幸せになるのか。 この旅で出会えた、たくさんの人たちのおかげで。
飛行機の中でわたしは何から話したらいいのか考えた。 話したいことは山ほどある。 幸せの実を食べたこと。 星を飾る青年にあったこと。 くじらの島や機械仕掛けの国。 話す豚に悪徳商売のおばあさん。 そして、幸せを奪い幸せを掴もうとする少年。
きっと、母は柔らかい笑顔で聞いてくれるだろう。 お腹に命を抱えた、あの女の人のように。 わたしは想像するだけで照れくさくなりこっそりと笑みをこぼした。
歩きなれた坂道を登って 見慣れた玄関の扉を押す。 あぁ、ハンバーグの匂い。
「ただいま。」
幸せはいつだって、こんなにも近くに転がっていた。
----
完結しました。見てくださってありがとうございました。 サイトのほうにこれまでリセットで掲載したものプラス2話(喋る豚と悪徳商売のおばあさんの話です。)をアップしています。よければこちらもご覧ください。 サイトへはこちらからどうぞ。
|