2004年08月30日(月) いのち
 

※8/21からの連載になっています。まずは21日の「メモ書き」からお読みください。

旅に出て13ヶ月と12日目。
わたしはお腹の大きな黒色の肌の妊婦さんに会った。

彼女はお腹をすかせて公園でくたばっていたわたしに声をかけてくれ
その上美味しくて温かいスープまでご馳走してくれた。
わたしは勢いよくスープを飲み干し
恥ずかしいことにげっぷまでしてしまった。

「失礼。」
「ふふ、気にしなくていいわ。」
「美味しかったので、つい。ごちそうさまでした。」

彼女はにっこりと微笑んだ。
なんて優しい笑顔だろう。
わたしは微笑みだけで赤面してしまいそうになる。

彼女は柔らかく微笑んだまま自分のお腹を優しく撫でた。
張り詰めたお腹。
その中には新しい命が宿っている。
こんなに間近に妊婦さんを見るのが初めてなわたしは
妙にどきどきしてしまった。

「触る?」
「え。そ、そんな。」
「いいのよ。色んな人の温かさを伝えてあげたいの。」
「えっと。」
「おいで。」

彼女に促されるまま、わたしは彼女のそばへと座らされた。
ゆったりとしたワンピースの下。
彼女の手に導かれるように、触れた。

「すごい。」
「なぁに?」
「この中に、あなたの幸せがつまっているのね。」

彼女はわたしを見上げて、少し驚いた表情を浮かべた。
わたしは泣いていた。
溢れるように泣いていた。
彼女は柔らかな笑みを浮かべると
わたしの頭をそっと撫で、その腕で包み込んだ。

なぜ泣いたのか分からない。
ただ、心の底が震えるほど温かかった。

落ち着いたころ、わたしは彼女のお腹に耳を当てた。
たまにポコリという音が聞こえる。
赤ちゃんが蹴っているのかしらと思うとくすぐったかった。

「信じられない。」
「なにを?」
「この中に赤ちゃんがいるなんて。」
「あなたもいずれ分かるわ。」
「そうかな。」
「そうよ。」

彼女は優しく笑って言った。
わたしは彼女に母の笑顔を重ねたのかもしれない。
すこし恥ずかしそうに笑って、目をとじた。





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