2004年08月26日(木) くじら島
 

※8/21からの連載になっています。まずは21日の「メモ書き」からお読みください。

旅に出て7ヶ月目に到達する3日前。
わたしは海のバスに乗っていた。
港で見つけた海のバス。説明を聞いて興味しんしんで乗り込んだ。

入り口で切符を買って好きなところで降りれるという、システム自体は普通のバス。
バスの形をした船で、海の上を走るところが新鮮だった。
わたしが海のバスに乗って一週間がたとうとしていた。

「次はーくじら島ーくじら島ー。」

突如バスの車内にアナウンスが流れ始めた。
わたしは窓の外を眺める。

「あ」

海の上に小さな島がぷかりと浮かんでいる。
くじらのような形の真ん中が大きく膨らんだような形に
ずらりと家や木が立ち並んでいた。
わたしはとたんに胸がどきどきしだすのを感じた。
とりあえず素敵なところについたら降りようと思っていたわたしは
迷いなくブザーを押した。

「ようこそ、くじら島へ!」

わたしがバスを降りてすぐ、「くじら島へようこそ!」と書いた
看板をもった若いお姉さんが笑顔で話しかけてきた。

「どうも。」
「わたしは説明ガールです。よかったら島をご案内いたしましょうか?」
「無料ですか。」
「はい、サービスで行っております。」

お姉さんは失礼なわたしの質問にも、かわいらしい笑顔で答えると
わたしを促し華麗な足取りで歩き始めた。

「こちらは博物館になっております。くじら島のことならここでなんでも分かりますよ。」
「へぇ。」
「あちらが居住区。こちらが商店街になっております。」
「ほぉ。」
「ホテルもこちらにございます。
ところでお客様はどれくらいご滞在する予定でしょうか。」
「えっと、次のバスが来るまでいようかと。」
「では、3週間後になりますね。」

お姉さんはにっこりと笑った。

くじら島にはいたるところに草木が生え
レンガが敷かれた広場があり、とてもにぎやかな雰囲気だった。
そしていたるところにレインコートを着込んだ人々を見かけた。
わたしは不思議に思う。天晴れなほどの晴天だ。

「ねぇ。雨でも降るの?レインコートを着ているわ。」

5人ほど見かけて、お姉さんに聞くとお姉さんは意味深に笑った。

「もうしばらくすれば分かりますわ。さぁ、ここが島の中心部。」

目の前には水の出ていない噴水。広場の真ん中だ。

「えっと。」
「お客様、知っていました?ここがくじら島と呼ばれるわけを。」
「え。くじらのような形だからでしょう?」
「まさか。本当は島そのものがくじらなのですよ。」
「え。」
「さぁ、もうすぐ始まりますわ。」

お姉さんがそういうのと同時に地面がぶるぶると震え始めた。
と、突然噴水からものすごい量の、ものすごい勢いの水が吹きあげた。
その水は驚くくらい高く上がって、真上で四散すると
雨が降ってきたかのような水が降り注いできた。

全身ずぶぬれになったわたしとは対照的にお姉さんは
どこに持っていたのかビニール傘を差してにこにことしていた。

「一日に数回、この大きな虹を見ることができるんですよ。」
「あ。」

わたしはお姉さんに言われ驚いた。
きれいな半円を描く、虹色の橋。
こんなにはっきりと虹を見たのは初めてだった。
赤、緑、黄色、その他もろもろの色、色、色。
虹ははっきりとその姿を映し出し、次第に空に溶けていくように消えていった。
わたしは髪から水を滴らせながら見入っていた。
お姉さんはわたしにタオルを差し出すとにっこりと笑った。

「どうでしたか、くじら島は。」

わたしはタオルで水気をふき取りながら答える。

「とても、気に入りました。」

お姉さんは優しく微笑み、丁寧に頭を下げた。

「ようこそ、くじら島へ。住民を代表して歓迎いたしますわ。」

わたしは照れてしまい、妙にどぎまぎしてしまった。

虹が空に溶けていくのを明日また見に来よう。
透明のレインコートも買い足して。
遠くで、くじらの鳴き声が聞こえた。





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