2004年08月25日(水) 水色のやじるし
 

※8/21からの連載になっています。まずは21日の「メモ書き」からお読みください。

旅に出て6ヶ月と20日目。
わたしは草花が咲き乱れる草原の中を歩いていた。
穏やかな気候が心地よい。風も柔らかく頬を掠めていく。
けれどわたしはいらいらしていた。
普段なら見つけられる幸せを、見逃していた。

それは、つい十分前に犬のウンコを踏んでしまったことや
ほんの1時間前に買ったドーナツをあと一口残したところで
地面に落としてしまったことが関係していた。
(ついてない一日!)とわたしは憤慨した。

そんな時、わたしは草原に不似合いなものを見つけた。
草原の真ん中に屋台がある。
オレンジとピンクのマーブル模様の屋根に、水色の柱と車輪。
そして屋台のいたるところにさまざまな色のやじるしが置いてある。
わたしが不思議な顔で見つめていると、満面の笑顔のおばさんと目が合った。

「こんにちは。」
「はい、こんにちは。」
「ここで何を?」
「この草原で店を開いてるのよ。」

おばさんは豪快に笑う。
この人はきっとよくしゃべる人だと
口元のホクロが教えてくれているようだった。

「商品は。」
「やじるしよ。」
「やじるし。」
「そう、どう使うかは使う人次第。」
「ふむ。」

わたしは、水色のやじるしを手に持ってみた。
木を切り抜いて色を塗っただけの。簡単なもの。

「面白いわね。こんな商品は初めて見たわ。」

おばさんは、目を光らせるようにしてにやりと笑った。
まるでわたしがこう言うのを待っていたかのようだ。

「でしょう。わたしは『わくわく』を売っているのさ。」

きっとこの言葉はおばさんのきめ台詞なのだなとわたしは思った。

わたしは結局買ってしまった水色のやじるしをくるくると回してみた。
どう使うか考えて、結局思いついたのはこれしかなかった。
わたしは矢印を宙へと投げる。
一回二回三回四回五回とやじるしは回転しながらゆっくりと地面に落ちた。

やじるしは左斜め下を指していた。
わたしはやじるしを拾ってその方向に歩いていく。
3歩歩いたところで10円玉を拾った。
20歩歩いたところで白くてふわふわした猫に出会った。

たったこれだけで少し幸せだと感じてしまった自分が、少し悔しい。

だいぶ歩くと草原を抜け港に着いた。
実は草原の中で迷っていたわたしは心底ほっとした。
次の国に着いたら、もう一度やじるしを投げよう。

わたしはわくわくしていた。





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