※8/21からの連載になっています。まずは21日の「メモ書き」からお読みください。
旅に出て3ヶ月目。国境を2つばかり越えた国で わたしは始まったばかりの戦争に巻き込まれてしまった。 救いなのはその街はまだ被害が少なく、あまり身の危険を感じずにすんだことだった。
砂埃の街。街に若い男の人の姿はなかった。 老人と、子供ばかり。みんなやつれた顔をしていた。 話しかけようとしても活気がなく、話す気力すらなさそうだ。 戦火がここまでのびてこないうちに、違う国へ行ってしまおうか そう考えているとき、顔をすすだらけにした少年に出会った。 少年はその小さな体に不似合いな、大きな銃を抱えていた。
「それ。」
とわたしが聞くと少年は得意そうに笑った。
「僕が作ったんだ。」 「そう。」 「本物だよ。」 「ええ。そうね。」
できるだけ優しく微笑むと、少年は自分の家へわたしを招待してくれた。 石造りの家。そこに少年以外の家族のぬくもりは感じられなかった。 少年は小さなじゃがいもと、まだ育ちきっていないにんじんをつかった 温かいシチューをわたしにご馳走してくれた。
「美味しい。」 「僕のお母さん直伝のシチューなんだ。」
少年はぽつりとそう言った。 わたしは聞けなかった。 そのお母さんがなぜいないのか。
「どうして銃を?」 「お父さんの仕事が銃を作る仕事をしていたから。 今、お父さんは戦ってて作れないから。僕が、代わりに。」 「そう。」
わたしは聞かないべきかと迷ったが、つい聞いてしまう。
「なんのために作るの。」
少年は怒るかもしれない。ひどく動揺するかもしれない。 けれど、少年は幼いその目を伏せて苦く笑った。
「幸せになるために。」 「…そう。」 「誰かの幸せを確実に壊してしまうけど。」 「そう、ね。」
それ以上わたしは何も聞けなかった。 聞く必要もなかった。言わずとも、少年はすべて分かっている。 少年の作ったその武器が、もしかしたら少年のような子供を 増やしてしまうかもしれないことまで。
たぶん、きっと。
わたしは街を出る前に、もう一度街を見渡して。 少年の薄いシチューの味を思いだした。
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