どこまでも快晴なのに外はどしゃ降りだった。 青い空、散り散りの雲、大粒の雨。 わたしは傘を差しながら(なんて天気だ)と毒づいた。
狐の嫁入りにしては、まるで台風が襲ってきたかのような雨である。 うそ臭いほどの青い空とさんさんと輝く太陽が 皮肉げに笑っているかのように貼りついている。 まるで(バーとかで使う)特大の氷のような大粒の雨に わたしの赤い水玉の傘はみしみしと悲鳴を上げた。(こんなばかな話があるか。)
わたしは空を見上げる。 うそみたいに晴れた空。 もしかして、これが本当はにせものなんじゃないかと疑ってみる。
ずっと昔に、普通の人生を歩んでいると思っていた男の生活が じつは全部作り物だったという映画を見た。 もしかしてこの世界もそうなのだろうか。
疑い始めると何もかもが疑わしくなってくる。 たとえば上司のちょっと浮いたように見える髪の毛とか 同期に入社した女の子の形のいい筋の通った鼻とか グラビアアイドルのIカップとか。
わたしは一通り空を見つめたあと、ため息をついた。 にせものばかり探しても仕方がない。 わたしはこの青い空を気に入っているし 今の家も入社したばかりの会社も友達も彼氏はまだいないが 全部気に入っている。そして気に入らないこともある。 それでいいじゃないか。
知らなければならないことがあるように 知らなくてもいいことが世の中にはあるものだ。
(あ、やんだ。)
雨は何の前触れもなく、すっとその姿を消した。 わたしは傘の下から空を見上げる。
そのとき、空の一部が剥がれおちた。 けれどわたしは何も見ていない。
見なかったことにする。
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