「お母さん、ちょっと出かけてくる。」
わたしは台所できゅうりを刻んでいた母にそう告げると 重たいリュックを背負って玄関へと向かった。 母は台所から出ることなく声をかけてくる。
「どこへ行くの?ご飯はいる?」
わたしは靴紐を結びながら答えた。
「ちょっと幸せ探しの旅へ。」
ちょっと間があって 台所から素っ頓狂な声とガシャンとなにやら物騒な物音が聞こえたかと思うと 母が慌てて飛び出してきた。 けれどもう遅い。わたしは玄関の戸に手をかけていた。
「ちょっと!どこへ行くの!」 「とりあえず西へ。餓死するまでには帰ってくるわ。」 「ちょっ…!」
最後まで聞くことなく扉を閉めて わたしは急いで歩き始めた。
こうしてわたしの幸せ探しの旅が始まった。 家を出てすぐわたしの鼻をハンバーグのいい匂いがかすめた。 あぁ、しまった。今日はハンバーグだったか。 明日出発にすればよかった。
などと思ったことは、内緒にしておこう。
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