2004年08月15日(日) とりかえっこ
 

道を歩いていると突然向かいから歩いてきた女の子に呼び止められた。
わたしと同じような背丈の
わたしと同じような服装の
わたしと同じような年齢の
女の子。

「とりかえっこしよう。」

わたしは行く手をふさがれて
仕方なしに会話をするはめになる。

「なにを?」
「環境を。」

女の子は平然と言った。
わたしはばかみたいに復唱する。

「カンキョウ。」
「そう、環境。」

わたしは低く唸った。
環境とは今暮らしている家だとか
通っている学校だとかのことだろうか。
頭の中で考えたことを読み取れるかのように
女の子はこくりと頷いた。

「いいよ。」

わたしは深く考えるわけでもなくそう言っていた。
つまらない日常からさようならしたいと考えていたもの。
彼女は初めてにっこりと笑った。

「ありがとう。」

わたしたちは互いの家の情報を交換して
それぞれ帰路に着いた。
環境をとりかえっこしたいなどというものだから
もしかして貴族の娘かなどと思っていたが
彼女の家はどこにでもある普通の(わたしと同じような)ものだった。

二階建ての一軒家、家に入るとお母さん(今はわたしの)が
にこにこして迎えてくれた。

「おかりなさい、疲れたでしょう。」
「は、はい。」

わたしは緊張して、しょっぱなから噛んでしまった。
お母さんは優しく微笑んだ。
夕方になると優しそうなお父さんが帰ってきて
3人で晩御飯を食べた。

湯気の昇るコーンスープに
じゅわっとしたハンバーグ
茹でたブロッコリーに甘いにんじん

お父さんもお母さんも優しく優しく微笑んでいて。
わたしはなぜだか泣きそうになった。
他人だからこそ、痛いほど伝わったのだ。
あの女の子がどれだけ家族に愛されているのか。
この家が、どんなに温かいのか。

わたしは一滴涙をスープに落とすと、立ち上がった。

「ごめんなさい。とても美味しかったです。」
お母さんはやはりにこにこして
「またいつでも来てね。」
といった。

家に帰る途中、向こうから女の子が歩いてきた。
わたしと同じような家族をもった女の子。
わたしは彼女の前で立ち止まるとにっこりと笑って言った。

「とりかえっこしよう。」
「うん。」

恥ずかしそうにふたりで手を振って
またそれぞれの帰路へと着いた。





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