結局、振り返ってみれば、 あたしとあなたは、同じ理由で離れられなかったのだろう。
今の恋人をどんなに好きでも、 あたしとあなたでいる時間は別物で、 他の誰といるより安心した。 あなたはありのままの自分でいられて、 あたしは、そんなあなたを眺めるのが楽しかった。 バランスがとられていた。
別れて1年半が過ぎて、 別の恋人がお互いに出来た。 あなたは大人になって、 あたしの悪いところも受け止められるようになった。 あたしは自分が出せるようになって、 あなたの前で自然でいられるようになった。
10年という時間に加えられたそれらは、 過ごす時間をより楽しくして、 あなたはあたしから離れられなくなり、 あたしのあなたへの態度も軟化した。
ともすればあたしまで、 あなたとの時間に依存しそうだった。 恋人を好きだからこそ力の入った背中を、 ほぐすように流れてゆく時間。 誰にも真似出来ないことだった。
でも、忘れちゃいけないのは、 あたし達が前に進んだのは、 それぞれの「新しい恋人」が理由。
2人だけでいてもきっと辿り着けなかった、 だって、だからこそ別れたのだから。
それならやはり、 今、会い続けてはいけないのじゃないか? あたしまであなたを求めてしまえば、 どこにも進めなくなってしまうのじゃないか?
あたしもあなたも、 今の恋人を手放したくないのに。
あたしは、そう考えながら口に出せずにいた。 はっきりと言葉になったのは、大分後、だったから。
「まりちゃんと一緒にいると、確かに楽なんだ。
安心できる。
まりちゃんのことも、好きだよ。
でも、それじゃダメなんだよね?」
あたしは今心から、ユミちゃんにお礼を言いたいと思う。 彼女の存在のおかげで、彼は成長したのだと思う。 彼女が直接与えたものではないにしろ、 彼がポジティブでいられる理由は、ユミちゃんだ。
「ダメだよね」 とあたしは答えた。 怖がりのあたしは、 「あたしも好きだよ」とは言えなかった。
いや、言わなくてよかったのだと思う。 あたしも寺島も、 ここに留まりたくてこんな話をしていたのじゃなかったから。
寺島はこれから1ヶ月、忙しい身で、 会いに来たくても来られなくなる。 このタイミングで、なにかにケリをつければ、 会えるようになっても大丈夫だろう。 寂しくなるのは、こんな風に、 10年間のセンチメンタルに浸ってしまったときだけ。 いつもじゃない。それがポイント。 きっと、寺島も、だから。
ねぇ、陽ちゃん。 あたしもいつか、あなたのところに戻りたくなるのかな。 あなたしかいなかった、って言うときがくるのかな。 万が一あなたが戻ってきたとき、受け入れる日がくるのかな。 藤原君が今でも望む未来が、実現するときがくるのかな。 そんなことを思ってしまうくらいには、 こないだのさよならは寂しかったけれど、 それは、大分、大分先の話だと思ってる。
あたしもあなたも、今は恋人を大事にしなきゃ。 恋人「だから」大切にする、 そんな風には思わないくらい、好きなのだから。それぞれの恋人を。
別々の道を歩くとき、なのだ。 あたしは確かに、このときそう感じた。 今でも信じている。
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