under one umbrella

2007年10月04日(木) いつもじゃない。






結局、振り返ってみれば、
あたしとあなたは、同じ理由で離れられなかったのだろう。



今の恋人をどんなに好きでも、
あたしとあなたでいる時間は別物で、
他の誰といるより安心した。
あなたはありのままの自分でいられて、
あたしは、そんなあなたを眺めるのが楽しかった。
バランスがとられていた。


別れて1年半が過ぎて、
別の恋人がお互いに出来た。
あなたは大人になって、
あたしの悪いところも受け止められるようになった。
あたしは自分が出せるようになって、
あなたの前で自然でいられるようになった。


10年という時間に加えられたそれらは、
過ごす時間をより楽しくして、
あなたはあたしから離れられなくなり、
あたしのあなたへの態度も軟化した。



ともすればあたしまで、
あなたとの時間に依存しそうだった。
恋人を好きだからこそ力の入った背中を、
ほぐすように流れてゆく時間。
誰にも真似出来ないことだった。




でも、忘れちゃいけないのは、
あたし達が前に進んだのは、
それぞれの「新しい恋人」が理由。

2人だけでいてもきっと辿り着けなかった、
だって、だからこそ別れたのだから。


それならやはり、
今、会い続けてはいけないのじゃないか?
あたしまであなたを求めてしまえば、
どこにも進めなくなってしまうのじゃないか?


あたしもあなたも、
今の恋人を手放したくないのに。



あたしは、そう考えながら口に出せずにいた。
はっきりと言葉になったのは、大分後、だったから。










「まりちゃんと一緒にいると、確かに楽なんだ。

安心できる。

まりちゃんのことも、好きだよ。

でも、それじゃダメなんだよね?」







あたしは今心から、ユミちゃんにお礼を言いたいと思う。
彼女の存在のおかげで、彼は成長したのだと思う。
彼女が直接与えたものではないにしろ、
彼がポジティブでいられる理由は、ユミちゃんだ。






「ダメだよね」
とあたしは答えた。
怖がりのあたしは、
「あたしも好きだよ」とは言えなかった。


いや、言わなくてよかったのだと思う。
あたしも寺島も、
ここに留まりたくてこんな話をしていたのじゃなかったから。




寺島はこれから1ヶ月、忙しい身で、
会いに来たくても来られなくなる。
このタイミングで、なにかにケリをつければ、
会えるようになっても大丈夫だろう。
寂しくなるのは、こんな風に、
10年間のセンチメンタルに浸ってしまったときだけ。
いつもじゃない。それがポイント。
きっと、寺島も、だから。





ねぇ、陽ちゃん。
あたしもいつか、あなたのところに戻りたくなるのかな。
あなたしかいなかった、って言うときがくるのかな。
万が一あなたが戻ってきたとき、受け入れる日がくるのかな。
藤原君が今でも望む未来が、実現するときがくるのかな。
そんなことを思ってしまうくらいには、
こないだのさよならは寂しかったけれど、
それは、大分、大分先の話だと思ってる。


あたしもあなたも、今は恋人を大事にしなきゃ。
恋人「だから」大切にする、
そんな風には思わないくらい、好きなのだから。それぞれの恋人を。




別々の道を歩くとき、なのだ。
あたしは確かに、このときそう感じた。
今でも信じている。



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