長い長いキスの後、強く強く抱きしめられて。 酔っていた私の頭は、それ以降の記憶が曖昧だ。 眠そうにしていた私を見て、寺島が帰った。 布団に倒れて、私はまさしく泥のように眠ったけれど、 9時には起きた。 「昨日の続き」 そう言って、寺島が来たから。
こんな安心感は、いつぶりだったのだろう。 いつまでも寺島と布団の中で、温かく過ごした。 昨日以上の喜びはないと思っていた。 何も怖くなかった、既に。
しかし、寺島は私にとどめを刺す。 彼は最初言うのをためらったけれど、私がせがんだ。 まさか、 2度と寺島から離れたくなくなるセリフとは思わずに。
「ねぇ、まだバカな幻想にとらわれてるみたいだけど…」
「ん?何?それ。何のこと?」
「ん、いや、やっぱやめとく。言わない」
「言ってよーー、気になる気になる気になる」
「んー…言いたくないなー」
「気になるー」
「んとね」
「うん」
「もしもね、これから先」
「うん」
「梅宮さんから告白されても、『彼女いるから』って、ちゃんと断るよ。
大体俺、あの人の顔も声も覚えてないんだよ?
すれ違っても気づかない。
だから、もうそんな幻想、気にしないで」
しばらく声が出なかった。 代わりに、お決まりの涙がこぼれてこぼれて、 「あーやっぱり泣いた、だから言いたくなかったんだ」 と寺島に言われながら、抱きしめられた。
天地がひっくり返った気がした。 寺島の中で梅宮さんは、誰も越えられない人のはずだったのに。 いつのまにか寺島の中で時が過ぎて、今は私がいるみたい。 どんなに寺島が私を好きになっても、このセリフだけはもらえないだろうと思ってた。
2度と傍を離れたくない。 ずっと手をつないでいたい。 そんなことを、怖がらずに思えるようになった。 そのために歩いていきたいと思えるようになった。
私、あなたに必要とされてるんですね。 本当に。 頑張っていいんですね。あなたとの未来のために。 そんな自信すらなかったの。
「ね、好きよ」
「俺も」
そんな短いセリフが、ずっと欲しかったの。
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