私が、他の男に必要以上にベタベタしたり、 他の男の話ばかりしたり、というようなことが原因で喧嘩したことは、 これまでに何度もあった。
その度に寺島は私をシャットアウトして、 私の声など何も聞かないし、何も働きかけてこない。 数日したら怒りがおさまって、普通になって、 後はその話題を少し話す程度。 機嫌もよくなって、いつもどおり。
元のように仲良くなるわけだけど、 私がしっくりいくはずない。 これって仲直りっていうの?って。 いつも思ってた。 いつも「?」がついて。 どうなるの?これ?って。 どうなるの?私の気持ちは?って。
そうやって寺島が私と向き合ってくれないことは、 不安を生み出す最大の原因で。
好かれてる自信なんかなかった。 隣でいつも笑って、好きよって言って、 寺島を満足させるために置かれてるんだと思ってた。
それは極端な話であって、 多少なりと寺島が私を好いてくれてることは知っていたけど、 この日の発言も未だ頭から消えていなかったし、 いつか、 もっと愛せる人をこの人は見つけるんだろうと思ってた。
だから。 寺島がこんな風に、ずっと私と向き合って話すことがあるなんて。 思ってもみなかった。
私を腕の中に入れたまま、 じっと私を見ていた。
その瞳に、私がまだ混乱しているうちに。 寺島が口を開いた。
「もう、忘れた。
お前が今夜何をしてたかなんて。
でも。
今度やったら許さない」
あ。
許して、くれた。
私のしたことに怒りつつ。
それでも私との未来のために。
怒りを抑えて。
忘れると。
あぁ、そんな風にあなた自ら。
あなたの感情を抑えてくれることなど、初めてだったの。
私といるために私のしたことを許してくれた。
それを私の目を見ながら言ってくれた。
そんなこと本当に初めてなの。
私は初めて。
あなたに、ありのままの私の全てを受け入れてもらえたような気がした。
「ありがとう…」
私が泣き出しそうになったのを察知して、 泣き出す前に、寺島が話し掛けた。
「お前は、誰の女だ?」
涙で脳がぐちゃぐちゃになっているのを感じながら、 「寺島陽介の女です」と答えた。
こんなキス、いつ以来だっけ。
「ごめんなさい………」
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