本当に、ずぅっと前に。 外国にて、指輪を買ってもらったことがあった。 他でもない寺島に。
安くて、少しすると割れてしまったし、 後のごたごたであたしは失ってしまったけれど、 思い入れはそれなりにあって、失ったことをとても悔んだ。 ケースしか残っていないのが悲しかった。
今は、寺島との間に指輪が欲しいなんて思わない。 ペアリングとかにも興味はない。 ただ、あの昔の指輪のことを、 あたしが思っていた以上に気にしていた寺島を、 あたしは知らなくて。
昨日。
訪れた100円ショップで、ちょっと眺めてみる。 指が太いあたしは、デザイン云々より、 まずはまるかを確かめる。 その様子を、寺島が笑った。 指ってどうやったら痩せるのかしらん。
「買ってやろうか?」 と言われても、あたしは本気で、 「要らない」 と言えるのであった。 今はそんなのにときめけない。
その前日にいろいろあり、 ちょっとあたしに負い目を感じていたらしい寺島は、 「買ってやる」 と、指輪の前を動こうとしなかった。
お互いの指にひとつずつ、光らせた指輪。 昨日は確かに少しだけ、信じられるかと思った。
今は正直、はめられないよ。 ごめんね。 苦しさが、先に立ってしまうよ。 理由は、いろいろあるんだけど。
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