恐怖で涙が零れるなんて久しぶりだ。 何度経験しても慣れない、 寺島を失うかもしれない、という恐怖。
藤原は、 「機嫌が悪かっただけだよ」 と、涙を流すだけのあたしを宥めてくれたけれど、 それを見落としていたあたしが悪かったのだ。 いろんな要因から、もう機嫌は直った、と判断した、 あたしが甘かったのだ。
陽ちゃんと何度呼びかけても、 寺島はこっちを向いてくれなかった。 ただ、部屋に向かって歩くだけだった。 呼び続けながら、 どこの昼メロだよっ!!!!!!!! と嫌気が刺していたが、 呼ばなければ沈黙になるわけで、 その沈黙には耐えられそうにもなかった。
寺島が家への道に消えてゆくのを見て、 あたしはどこへともなく歩いた。 気がついたら、藤原の家の前にいて、 藤原に「泣くなよ」と笑われた。 ごめん。 でも1人じゃ。壊れてしまう気がしたの。 ありがとう。
藤原と、少しだけ話して別れた。 別の話もして、そのときは笑える自分が不思議だった。 頭を切り替える術を、あたしは身に付けたらしい。 便利だ。
泣いてその場にしゃがむのは簡単だ。 後ろ向きに歩いてみるのも、そう難しくない。 だけどあたしは嫌だ。 前を向かなければ何もないのだ。 歩かなければ始まらないのだ。 動かなければ、ゼロのままなのだ。
溢れる涙はそのままにしておけ。 怖くないはずがない。 愛する人を失うかもしれない不安が、 涙を必要としないわけがない。 その感情を拒否していいことはきっとない。
歩かなければ、涙も乾かないから。 とりあえず歩こう。 帰ろう、あたしの場所へ。
先のない道なんてない。 明けない夜と上がらない雨もない。 歩けばそこが道。 光が指せば未来が見える。
歩くことを怖がるな。 傷つくことを恐れるな。 守りぬけ。信じる気持ち。
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