多分、今までで1番酔っていた。 1人で歩いて帰れなかったのは初めてだ。 大体、酔うのが早すぎた。 皆、ボーリングで疲れていたのだろう。
寺島は…相変わらずずるくて。 優しくて。温い。
「なぁ藤原。
こいつ酔っ払ってるから、送ってってくれよ」
心配なら自分が送ればいいじゃない。 何で人任せなの? 結局、あたしを優先させることは出来ないってことだよ。 そう思ったから。 藤原に送らせたりは、しなかった。 悪すぎるよ。 ちゃんと藤原の家の前でさよならした。
「ねぇ、大丈夫?
帰れる?」
そう言わせたのは、きっとあたし。 言って欲しいオーラを出してたことだろう。 言わせたくせに、
「うん。大丈夫」
と、少しだけからめた指を離したのもあたしだ。 酔っぱらいというのは意味不明である。
意味不明な酔っぱらいは、直後に電話をかけてみたりする。
「どうしたの?」
って電話に出る寺島は、優しいんだと思う。
「ねぇ、帰れないって言ったら、
ついてきてくれた?」
「うん。帰れないの?」
「帰れないかも。だって今歩けてないよ。
でも大丈夫」
「本当に?じゃ帰れたら電話してよ」
「んー」
1人になると、すっと理性が戻ってきたりするのに、 昨日はその感覚が全然なかった。 とろんとしたままで、 あれーおかしいなぁ、酔ってるなと自覚したくらいだから、 まだ吹っ飛んではいないのだろう。 この日記の半分くらいは、昨日書いているし。
食卓で、寺島に電話をした。 「着いたよー」
「今家の中?」
「ん」
「よかった」
「何で?」
「何でって。何かあったら嫌じゃんか」
「嘘ばっかし」
「嘘じゃないよ」
酔っぱらいというのは卑屈である。 それとも、あたしの元々が卑屈なのか。
阿比留さんだったらきっと送ってくれてたね? 二宮さんだったらどうだろ?
結局あたしは、根本的な部分で勝つことが出来てない。 これからも勝てない気がする…彼女らはあたしが持ってないものを持ってる。
「嘘吐き…」
そんな感情を勝手に声ににじませるあたしも、 相当ずるいんだと思う。
寺島が、 「いや、お前の気持ちもわからんではないから」 っていきなり言い出した。 想像してなかったセリフにきょとんとなる。
「何のこと?」
「ん、お前のいろいろな気持ち」
「え?気持ちって?どれよ?」
「だからいろいろだよ」
このあたしの何をわかってるって言うんだろう。 くるくるくるくる変わってるのに。 初めてそんなことを思った。 でも一種の被害妄想だとも思った。 多分あたしは、自分で思ってる以上にわかりやすいし、 寺島はそういうのを汲み取るのが得意な人だ。
「わかってもらえなくても大丈夫」
そのセリフが酔っぱらいの戯言だというのも。 きっと、バレバレだったんだろう。寺島には。
これから先寺島の心をつかむのは、他の人しかありえないって知ってるのに。 あたしのことを1番わかってるのは、寺島であってほしい。 そんな矛盾を、 あたしはいつまで抱えていくんだろう。 一種の馬鹿である。
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