ボク自身、 寺島を思いやれてる自信なんか、ないよ。 知らず知らず、傷つけてるのかもしれないし、 利用宣言でしょ?って聞いたことで、傷つけたのかもしれない。
けど、それに故意なんてカケラも無いよ。
傷つけたくない、 守りたい、 そう強く思って、ここまできたよ。
だから、寺島を傷つけた今井が大嫌いで、 今でもどうしても、許すことが出来ないよ。
そんなボクは、きっとそこかしこで見れるハズなんだよ。 ボクは元々、気持ちを隠すことが苦手だもの。 兄さんにもよく見破られて、 寺島も、見破る人だもの。
それなのに。 寺島はいとも簡単に、あたしを傷つけるの。
こんな風に感じる時点で、 もう愛じゃない。 自己愛という名のものよ。
ねぇ兄さん。 苦しい。
あたしは、たった1人の恋しい人さえも、 愛せない人間だったよ。
あたしが今まで言葉にしてきた「愛」は、 実は、こんなにうすっぺらかったの。
本当はそんなこと信じたくなくて、 「愛してる」って言葉は今でも自然に出るけど、 自分で自分が信じられないの。
傷つけられて「ばいばい」だなんて。 子供もいいとこ、でしょ? 最後まで、寺島を思いやれてないの。
兄さんは何度も、寺島のことを、
「自分勝手な奴だ」
と言ってたね。
「早く気づけ」
って、ボクに言ってくれた。
兄さんと同じことを思うボクも確かにいたけれど。 それでも、寺島が好きだった。 そう呟いたら、胸がきりっと痛んで、 涙がお湯に落ちるくらいに。
人生最大に好きだった。
少し天然の髪の毛も、 テニス焼けした肌も、 きれいに長い睫毛も、 芯の強さの見える瞳も、 柔らかい唇も、 火傷の痕の残った鎖骨も、 抱きつくと温かい首筋も、 付け根にマメの出来た指も、 厚い胸も、
そこに「寺島」という名前がつけば、 全てが好きだった。 全てが愛しかった。
逆に言えば、そこに別のどんな名前がついても、 あたしは満足出来なかった。 そんな自分を、痛いほど知ってた。
「ばいばい」って言ったことは、 正直、ちょっと後悔してる。
手を離されることは慣れてても、 離すことにはまだ慣れてない。
そして、思い違いだったら嫌だけど、 嘘をついたことは、 寺島の思いやりだったのかなぁとも思う。
「都合の良い女は嫌」 そう意思表示した、あたしに対して。
ねぇ兄さん、どっちだったのかな? あたしは、寺島の思い通りになってしまったのかな? それだったら、少し悔しいし、 また惚れ直してしまうけど。
どちらにせよ、あたしは、 また、歩いていかなきゃいけないんだよね。
新しいあたし。 そこに辿り着くまで。
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