とても、安っぽいのだけれど。 最近、抱きしめてくれるようになったというだけで、 あたしは寂しくなくなっている。
寂しくて寺島に会いたいと思うんじゃなく、 昔のように、ただ、時間を共有したい。
会って、辛い気持ちをぶつけたいんじゃなく、 例えば映画を観るとか、 テニスをしに行くとか、 楽しいことをしたい。
こんな風に、ちゃんと感じることが出来るようになったのは、 ごくごく最近だ。 以前のあたしは、言葉に出来なかった。
今より幸せを感じていたはずなのに、 辛いことは少なかったはずなのに。
少しは、成長した、ということなのかな。 そう思うと、過去をちょっと愛しく思える気がする。
「抱き締めるとね、まりあ、
顔がほころんでるよ?」
抱き締められても機嫌は直らない、 という顔をしてたはずだったのに、 そんなことを言われて、恥ずかしくなる。
「違うよー、
ほころんでなんかないよ」
そう言って、改めて顔を作って、 抱きついてみる。
「ほらほら、
このへんがほころんでる」
口元を指差されて、あれ?となる。 もう、いいよ。 嬉しさを隠さずに、抱きついた。
抱き合った後で、寺島が布団をかけてくれる。 抱き締めてもくれるから、暖かい。
そんな気遣いがね。 寺島の心に、余裕があるんだなぁって感じられて。 嬉しかったんだよ。
寺島が優しいときは、余裕があるとき。 寺島の心が、穏やかなとき。 あなたがずっと、そういられたらって、本当に思うんだよ。 だって、苛々してるより、楽だと思うからね。 こんなこと書いても、ただ、 優しくしてもらいたいだけだとしか見えないんだろうけど。
「ねぇ陽ちゃん…
あったかい。」
寺島が、眠そうに返事してくれた。
「うん」
寺島の腕の中で眠るのは、幸せなようで、 時間が勿体無いし、恥ずかしい。
鼻が子供の頃から悪いから…。 いつも寺島に起こされてから、1人で恥ずかしくなる。
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