恋愛感情さえなければ、一緒にいて楽しい。 彼女なんか要らないと、寺島は笑った。 あたしもきっと。 恋愛感情がないからこそ、竜崎君や藤原と笑っていられるのだろう。
高校のときの友達に、 「あたし、寺島君と純ちゃんには、友達でいてほしかったな…」 と言われたことがある。 今のあたしにこそ、響いてくるセリフだ。 本当。 あのときのように我慢をして、笑えばよかった。
今、寺島と普通の友達のように電話をしたり、 CDショップに行ったり。 穏やかに過ごして、そしてそんな時間を、 寺島がまた作ろうとしてくれる。 恋愛抜きなら、あたし達は、こんなに上手くいく。 お互いに優しくなれる。 それが一番だ。
中学3年の、きっと今頃だっただろう。 寺島のクラスに入り浸って、仲良くしていた。 当時の寺島は、今井に惚れていることがまるわかりで。 絶好のからかいのネタ。 毎日笑って、過ごしてた。 からかう度に、少しずつ大きくなる胸の痛みは、見ないふりをしてた。
あるとき、どうしようもなくなってきたから、 寺島に電話をかけた。
「今まであんたごまかしてたけどさ、なんだかんだで、 今井のこと好きなんでしょう?」
開口一番のこのセリフは、 かなり寺島の不意をつけたようで。 少しどぎまぎした様子を見せた後、寺島は、
「好きだよ」
と答えた。
その響きを悲しむ間もなく、あたしは笑わなければならなかった。 嗚咽なんて聞かせたら、この人を失う。 それしか考えてなかった。 …やっぱり、中3のときから変わってないなぁ。
少し今井の話をした後、 「じゃぁ私は失恋ね」 と明るく言って、 更に呆然とする寺島をまた笑って、電話を切った。 次の日から、同じ毎日を過ごした。
どうしてあの頃のあたしは、今より強いんだろう。 今よりきれいな笑顔で、寺島に笑いかけられるのだろう。 今のあたしが笑っても、見る人が見れば翳っているのだ。
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