今井からメールが来たのは、今日の夕方だった。 ある意味簡潔な内容に、 バイト帰りに始まっていた、あたしの頭痛がひどくなる。
「あたしのアドレスを、あの男の携帯から消して。 気持ち悪い」
ことの発端は、 以前寺島が、あたしに今井に逢いたいと話していたときに、 あたしが耐えかねて、アドレスを教えてしまったことによる。 そのときは寺島も、 許可とって無いだろうと言って、使おうとしなかった。
最近またやってきたその波に、 寺島は逆らいきれなかったようだ。
とりあえず、勝手に教えてしまったことは心底謝る。 あの場限りの激情で、やってしまったから。 けれど彼女が寺島をこんなに拒んでいることを、 何故あたしが寺島に告げなければいけないのだろうか。 辛すぎるだろう。 本人にメールしてくれ、と今井に言うと、
「あの男に金を使うのが勿体無い」
という言葉を中心に、拒絶の言葉を書いてきた。 それを読んで、また頭が痛くなる。
今井に言ってやりたいことは、山ほどあった。 けれど言えば、 今井の気持ちを無視することになる。 それはまた、おかしいことになる。 寺島が今井に逢いたい気持ちを受け止めろと言えば、 (逢えと言っているのではないが) 今井が寺島を拒絶したい気持ちも受け止めてやらなければいけないだろう。 そう思って、 「今すぐあんたをひっぱたいてやりたい」 そう送るのは、やめた。
あたしは、今井が寺島の悪口を言うのが、 本当にひっぱたきそうになるほど許せない。 寺島に想われてるのに、というところがないでもない。 その事実から完全に目を逸らして、 寺島の批判ばかりすることが、あたしには耐え難い屈辱なのだ。 昔から、そうだ。 この人が寺島の気持ちを真正面から受け止めたことは、あっただろうか。 いつも逃げている。 だから許せない。
今井のことを考えながらも、 やっぱり腹が立って、 右手に力をこめて床を殴ったら、思った以上に音が出た。
…嫉妬している。 それは否定しない。
そんな優しささえも、 寺島に与えてはくれないんですか?
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