高らかに、軽やかに。 響く彼女の声を、あたしが聞き間違えるわけがなかった。 二宮アミ、ちゃん。
振り返るのに、勇気が要った。 びくりとしたのがバレていないかと思った。 「久しぶりー!!」 という彼女の声を染み込ませて、 あたしは笑顔を作った。
学校の制服。 少し染まった髪。 明るい笑顔は、そのまま。
あたしの大学が、台風で休講になったことと、 まだ始まったばかりであることを、 彼女は可愛らしくなじった。
2言3言で、じゃぁね、と別れて。 一緒にいた幸子と、 やられたね、と笑った。
「でもこんなこと、寺島には言えない」
と幸子に言うと、
「どうして?何でもないことなのに」
と、訳知り顔で笑われた。
そうよね、何でもないこと。 なのにどうして怖いのかしら。
良い人。すごく良い人。 よく気がついて、面白くて。 努力家で。可愛くて。
寺島のことさえなければ、 あたしは何の曇りもなく、彼女を好きになれるのに。
彼女が何をしたわけでもなくて。 あたしに何か言ったとかでもないし。 寺島を誘惑したわけでもないし。
どうして、切り離せないんだろう。 どうして言えないんだろう。
思い出したくない。 あの夜を。 考えたくない。 それが正直な気持ち。
恋心なんて、やっぱり邪魔なだけ。
|