under one umbrella

2004年09月29日(水) 訳知り顔で


高らかに、軽やかに。
響く彼女の声を、あたしが聞き間違えるわけがなかった。
二宮アミ、ちゃん。


振り返るのに、勇気が要った。
びくりとしたのがバレていないかと思った。
「久しぶりー!!」
という彼女の声を染み込ませて、
あたしは笑顔を作った。



学校の制服。
少し染まった髪。
明るい笑顔は、そのまま。

あたしの大学が、台風で休講になったことと、
まだ始まったばかりであることを、
彼女は可愛らしくなじった。


2言3言で、じゃぁね、と別れて。
一緒にいた幸子と、
やられたね、と笑った。




「でもこんなこと、寺島には言えない」

と幸子に言うと、

「どうして?何でもないことなのに」

と、訳知り顔で笑われた。


そうよね、何でもないこと。
なのにどうして怖いのかしら。



良い人。すごく良い人。
よく気がついて、面白くて。
努力家で。可愛くて。


寺島のことさえなければ、
あたしは何の曇りもなく、彼女を好きになれるのに。


彼女が何をしたわけでもなくて。
あたしに何か言ったとかでもないし。
寺島を誘惑したわけでもないし。


どうして、切り離せないんだろう。
どうして言えないんだろう。





思い出したくない。
あの夜を。
考えたくない。
それが正直な気持ち。


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恋心なんて、やっぱり邪魔なだけ。



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