不意に、寺島が唇を押しつけた。
「どうだよ?嫌いな奴にキスされて」
驚きながら、悲しみながら、 心のどこかでときめいているあたしがいた。 けれどそんな答えは、今この人は求めていない。
「全然ときめかない」
言い終わった瞬間、またキス。 離れても、寺島は、 遊ぶように唇をつけていた。
「あたしに嫌われたら、陽ちゃんは幸せ?」
寺島の頬に触れた。 こんな状況なのに、あたしは、 前と変わらずに、寺島が愛しくて。
あたしの問いに、寺島は間を置いて答えた。
「…うん」
「なら、なるから。 陽ちゃんが幸せになるなら、あたし何でもするから。 何でもいいから」
寺島はまた、何にも言わなかった。 あたしも、それ以上言わなかった。
階段を上ってくる音がして、 上ってきた藤原達が、ドアを開けた。 急いで離れて、あたしは涙を拭いた。
そして、 何事もなかったように、藤原達と話し始めて。 何も変わらない顔で、お酒を飲んだ。
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