幸子の話を、少し。
幸子の大学が開学記念日だとかで3連休になるので、 幸子が地元に帰ってきた。 うちに遊びに来た幸子に、日記を見せてと言われて、 寺島のことを言えるわけが無いので嫌だと言ったら、 「私に言えないことを書いているんでしょう」 とずばり言われ、顔に出てしまった。
結局見せはしなかったものの、 寺島のことを、大体言わされた。 案の定、いい顔はしなかった。
それは構わない。 幸子に限らず、誰でも、こんな関係にいい顔はしないだろう。 どんなに主張しても、所詮はセフレだ。 少なからず、私と寺島の間でしか理解出来ない部分がある。 私と寺島のやり取りを、一言一句話すわけにはいかないのだから。
けれど、
「私はもう、何も言わない。 あんたは結局、茶原の意見を採るから」
というセリフに、固まってしまった。
確かに。 彼女はずっと、私に、寺島と別れろと言っていた。 もっと自分を大事にしてくれと言っていた。 付き合ってもいないのに、そういうことをしてはいけないとも言っていた。
彼女の意見を、シカトしてきたわけじゃない。 元々が、一般的な意見であるから。 私の理性だって同じ意見だし、理解は十分に出来る。
ただ、「理性」と逆の言葉として使うならば、 「本能」が寺島を選んだという話だ。
「彼女」という称号も、周囲の祝福も、周囲の理解も、 私は要らなかった。 寺島といられればよかった。 いつでも、私は。
寺島が好きだ。 理由なんか無い。 後付の理由なら、いくらでも喋れるけれど。
それが結果的に、茶原の意見を採るカタチになっているだけだ。 茶原は、私達を応援してくれているから。 同じ方向性なわけだ。
幸子と茶原をランク付けしているわけじゃない。 私の頭の中には、ちゃんと2つの意見が存在している。 それはどちらも、本当の気持ちだけれど、 選ぶなら、私は寺島への気持ちを選ぶのだ。 だから、幸子のセリフがショックだった。
すれ違ってしまっている。 はっきり、そう感じた。
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