5月のゴールデンウイークに、 竜崎君と、市丸と、もう1人男友達と、カラオケに行って。 その後、竜崎君と市丸と3人で、飲んだ。
当初、そんなに期待はしてなかった。 カラオケで、皆疲れてて。 次の日、竜崎君は県外へ帰る予定だったから、 次は会えるのは遠いんだし、せっかくだからーみたいな感じだった。
それが、お酒のせいだか何だかわからないけど、 異常に盛り上がった。 買ってたお酒はすぐになくなって、あたしは買いに行かされた。
あたしの部屋で飲んでいたのだけど、 宴会だった父がえらく早く帰ってきて、何となくお開きの雰囲気になり、 それでもずるずるとしゃべりながら、 午前1時44分に、彼らは帰っていった。
何の話をしたのか、もうあまり覚えてない。 けれど、あの夜は。 ずっと最近まで、あたしの癒しだった。
竜崎君とは、実はあんまり喋ったこと無かった。 あの夜に、初めて打ち解けて話せたのだと思う。 他愛も無い話題だったけれど、一緒に笑い合えたことは、 あたしにとって、大きかった。
カラオケで、竜崎君が歌って盛り上がった、大塚愛の「さくらんぼ」。 聴くとよみがえる、あの盛り上がった雰囲気も、竜崎君の声も。 いつもあたしを元気にしてくれた。 もっとも最近は、あの歌自体のパワーにも癒されていたけど。
元々、竜崎君は歌が上手くて。 彼のポルノグラフィティを聴くのが、あたしは大好き。 野球の専門的な話が出来るとこもすごいって思うし。 好きなチーム一緒だから。 話してて、聞いてて、楽しい。
何となく機会がなくて、アドレスを教えてない。 市丸から教えてもらえるし、多分送っても大丈夫だと思うけど、 いざ送ろうとすると緊張して、手が止まる。 それで何度、市丸に笑われたことか。
自分でも、そんな感覚が久しぶりで。 自然にそうなってしまうというよりも。 楽しくて、それを選んでいる。
本当はわかっている。 竜崎君に逃げているだけなんだと。 だって彼とは。悪い思い出がないから。 いつも楽しい思いさせてもらってるから。
けど現実。 人間関係にそれだけってありえないし。 だから本当は。彼とは何も始まっちゃいない。
悪い思い出。 寺島とのそれは、もう数え切れない。 いい思い出の数を、越してしまっている気もする。
なのに、選んでるのは寺島。 そんなことは、あたしが一番わかっている。 だから、竜崎君のことを考えるたびに。 寺島への想いを再確認するというバカなことを、 あたしは最近、繰り返していた。
そんな、何でもない彼のことを。 寺島に対するあてつけになんて、使えるわけなかったのだけど。 あのときあたしはとにかく嫌で、 何でもいいからぶつけて、 これ以上寺島の口からあの人の話を聞きたくなかったのだと思う。
案の定あの人は、機嫌を悪くして。 「俺は妥協の産物か?!」って。 このあたしに言った。
妥協して選んでるんだったら。 こんなに、我慢するわけないのに。
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