寺島と話をつけてから、一週間。 心は、寺島に戻ってしまっていたけれど。 だからってまたすがりつく気なんてさらさらなかったし。 受験が終わらなきゃまともに話せないと思っていたし。 ましてや。 寺島がまた求めてくるなんて予想もしていなかった。
細かい説明を省けば。 その一週間目の夜に、市丸と話していた横を寺島が通り。 三人で話していたけれど、市丸が帰り二人になって。 一緒に帰ろうとして、寺島の隣を歩き始めたあたしを。 半ば強引にあの人は、暗がりへと追い詰めていった。 あたしに何が出来る? 本能ではそれを求めてやまなかったあたしに。 それをあの人はきっと。 知っていたのだろう。
「まだ好きなんだ?」 どういう会話の流れだっただろうか。 今はよく思い出せないけれど。 そう聞かれて、嘘は言えなかった。 「好きだよ」 寺島の目をまっすぐに、あたしは見つめ返した。 精一杯の抵抗のつもりだった。 少しの沈黙の後、寺島があたしを抱き寄せようとした。 「嫌だ。やめて」 寺島は何も言わなかった。 両腕をつかんだまま、ただ微笑みを浮かべるだけ。 「こんなことしたって、ためにならないよ」 「それは結果論じゃん」 「ためになる要素がどこにあるの?あたしは空しいだけなのに」 「…」 話していた場所が坂で、あたしの立ち方は傾いていて、 しかも抵抗のために不自然な姿勢をとっていたからなのか、 そのときあたしの左足がつった。 「痛っ」 「どうした?」 「足が…つった」 それを聞くや否や、寺島はあたしを抱き寄せた。 「嫌だ、放して」 「痛いでしょ」 それでも離れようとするあたしを、さらに強い力で寺島が抑える。 …あたしにどうしろって言うんだろう? この人はあたしに何を求めてるんだろう? あたしには、それに応える義務があるんだろうか?
好きだよ。 今でもあたしは、果てしない程にこの恋に溺れている。 だけど見境なく突っ走ることには疲れた。 もういいかげんに。温もりが欲しい。 落ち着きが欲しい。安心が欲しい。 だからあなたの手を離したのに。 あなたが、そんなあたしを知らないはずがないのに。
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