「ねぇ、この間は、ごめん」 次の火曜日。 寺島の腕のなかで、私は謝った。
「ん?何が?」 「電話、しちゃったでしょ」 「ああ。いいよ、別。」 「でも…ごめんね、こんな時期に」 「いいよ。だって『親友』でしょ」 「…」 その言葉に途惑った私を、寺島は見抜いただろうか。 わからない。 多分、知らない。
「親友」という言葉に逃げているんじゃないかと。 私達の関係は、「元恋人」のそれでしかないと。 誰かが繰り返す私の頭に、寺島の言葉は重たく響いた。 私、本当に「親友」やれてる? あなたの将来のために、今のあなたを支えてあげられている?
「俺ね。何でも一人でやろうとしちゃうんだ。 それも、他の人には出来ないこと。 人に頼るのも、逃げるのも嫌なんだ」 「でも陽ちゃん…人間一人っきりで、 一生過ごしていけるものじゃないわ」 「わかってるよ。そうとも思う。 その矛盾で、今俺は苦しい。 矛盾に気づいているからこそ、苦しい」
そんな風に考えることの出来る人が。 私との関係の矛盾に気づかない。 いいえ、気づかないふりをしている。
受験さえなければ、この人はここまでおかしくならなかったのかもしれないし、 ないのになったとしたら、私は今より傷ついて、 その分強くなることが出来たのかもしれない。
こんな風に考える私も、寺島と同じくらい罪深いのだろう。
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