「もしもし」
「もしもし、あ…。勉強、してた?」
「あ、うん…してたっちゃしてたかな」
「何それ」
「さっきまで寝てて、今始めたとこだったから(笑)」
「(笑)」
「どうした?何か用?」
「ううん…。今さっき、ちょっと怖かったことがあって」
「はぁ」
「それでその…声が聞きたかっただけ」
「…(苦笑)あぁ、そう」
「あぁそうとは何よ!あーあ、あたしの愛の告白が…」
「(笑)何だそりゃ」
「(笑)冗談だけどね」
「…」
「…ごめん、本当にそれだけ」
「いいけど…何があったかぐらい話せよ」
「…いいの?」
「いいよ」
「…。…さっきスーパーで…お母さん倒れちゃって」
「…」
「倒れたっていうか、なんかおかしくなって。痙攣とかしてて」
「…」
「救急車呼んで、病院行って…」
「…」
「今帰って来たんだけど…独りでいたら怖くて怖くて」
「…何て言えばいいのか、わかんないけど…」
「ううん!いいの。聞いてくれただけで、嬉しい」
「…」
「本当に…陽ちゃんの声が聞きたかっただけなの」
「…そう…」
「勉強、してたんでしょ?ごめんね」
「いや」
「じゃあ、頑張って。ありがとう」
「ああ。じゃあ…」
「うん。ばいばい」 ピッ。
切って初めて、ああ、あたし正気じゃないと思った。 こんな時期に寺島に電話するなんて。 そうして否応なく、まだ寺島に恋していることを思い知らされて。 恐怖と不安は確かに消えたけれど、 切ない気持ちが残ってしまったじゃないか。
あたし、馬鹿だ。
***
付け加え。
今日は寺島と、種元駿君の誕生日です。
駿君のご冥福をお祈りすると共に、 今この瞬間に生きていることの幸せと、罪深さを感じています。 これから一生、私の人生がいつ終わるかはわからないけれど、 この日が来る度に私は、思い出すでしょう。
そうした意味も、ひっくるめて、私は。 あなたに「おめでとう」を言います。 誕生日おめでとう。 生きていてくれてありがとう。 お母様。あの人を生んでくださってありがとうございます。 陽介さんがいらしたから。 今の私があるのです。
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