2003年09月03日(水) |
ごめんねって言う寺島に、私はそう言った。 |
午後9時頃、チャイムが鳴った。 迎えた弟が、嬉しそうな顔で私を呼びに来た。 嘘だと言い張る私に代わって見に行った母が、 「あらいらっしゃい」 と、寺島専用の愛想のいい声を出した。 ついに私は、応援練習で筋肉痛の腰を上げることになってしまった。
理由は他愛もなかった。 男友達が寺島に電話をかけてきていて、寺島は留守していたのだけど、 電話をかけさせたのが私じゃないかと思ったのだ。 私はかけ辛いから。 でも私には全く覚えがなかった。 そう答えて。 会話は終ってしまった。
一緒に帰るのが習慣だったからなのか。何のきっかけもなく自然に道を歩き出した。 どちらの高校も、今度の日曜に体育祭があるから、その話をずっとした。 いつも話していたところで止まって。また話をした。 例の気になる人の話もした。 私はちっとも。哀しくなかった。 図書館の話もした。 自由で嬉しかったと、素直に話した。 市丸にされた質問に、寺島は笑った。
「陽ちゃん、胸見すぎ。」 「…見てないし」 蚊の鳴くような声で寺島は言い、うつむいた。 送られる視線が、あまりにもわかりやすかった。
「逃げてたんでしょ?」 「…そんな意識なかったけど」 「違うんなら、私が面藤テなこと言い出しても大丈夫だったでしょ」 「…」 寺島の腕は、私の腰。 私の腕は、寺島の首。 自転車を挟んで話をしていたのだけど。 「こっち来て」 と言われたら、拒否出来なかった。 好きだからじゃない。 寺島はそういう男だって知っているから。 今寺島が孤独を感じてることを、話を聞きながら察していたから。 むしろ同情。 だから体だけ寄せて、話はキツイ話をした。
「陽ちゃん私に甘えてるでしょ」 「それはそうかもしれない」 「何しても、変わらずに好きって言うと思って」 「…」 「どうしたの?」 「純子に説教されるなんて」 2人で苦笑した。 いつもは逆だったから。
本当は拒否するべきだったのかもしれない。 いや、そうだった。 だけど、どこにも逃げずにやっていける人間なんていやしない。 ごめんねって言う寺島に、そう言った。 付き合ってるときは、やっぱ愛されたくて。 自分というものが必要とされてないことが悲しくて。耐えられなかったけど。
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