別れる直前から、あたしは、その人から本を借りていた。 例の、その人が大好きな小説。 別れてからも借り続けて、読んでいた。
最初は開くことすらできなかったそれも、だいぶ読めるようになっていた。 そのことはつらかったけれど、本を読めること自体は、少しでも別世界へ行けるから、 気がまぎれて、ちょうどよかった。
「さよならメール」を送ってから初めて、会うことになった。 その本を返し、さらに貸してもらうために。 他の目的もないわけじゃなかったけど、それは別れた後の残務処理みたいなもんで、 戻りたかったとかそんなんじゃない。 そう言いたくなる衝動が起こらない自信も、あった。
会いたくないというわけでもない。そりゃ、まだ好きだし会いたい。 だけど自分の中で、付き合ってた頃の「逢いたい」よりは、純粋な気持ちのような気がした。 何も期待していなかったから。 今は、「元恋人」として彼を好きなんじゃなくて、ある意味では友達に近い気持ちで、 「彼」という人間が好き。だから会って、いろんな話をしたい。 そんな感じだった。
前日、あたしは突然発熱した。 当日になっても、下がらなかった。 一応そのことは伝えてはいたけど、あたしは、約束を破りたくなかった。 熱はあっても、頭痛やめまいは治っていたから、 母に許可をもらって、その人を待った。 会うのは、その人の塾のついでだから。塾からの帰り道で待ってればいい。
あたしには絶対、真似できないこと。
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