under one umbrella

2003年06月10日(火) 「空しい」



何にも変わらない。
まるで、何もなかったかのように。
2週間前の、恋人だった頃のように。


いつもの口調で。いつもの、好きな小説の話。
それを話すときの彼の表情が好きだったことを、あたしはぼんやりと思い出していた。
きらきらした顔。
本当にその小説が好きなんだなって、伝わってくるような。
あたしまで幸せになれるような、笑顔。
泣きそうになって、必死で堪えた。


いつか話が途切れて、いつもの「ように」抱き寄せられて。抱きしめられて。
いつもだったら、その喜びに身を任せていたところだったけど。
あたしの頭は、妙に冷静で。
習慣だったからやってるだけで、別に抱きしめたいわけじゃないんだよね、なんて考えていた。
何をされても、あたしの頭から、その考えが消えることはなかった。


「本当の意味」で、抱かれてるわけじゃない。
この人が戻ってきたわけじゃない。
愛なんてどこにもない。
涙がこぼれて、気づいた彼もほんの少し、あたしを見つめた。
手を止めるわけじゃなかったけど。




帰り道、あの人はあたしに、「空しい」と言った。
やっぱり、いくらあたしが「過去の人」で、どちらかと言えばどうでもいいような存在でも、
人を奴隷とか機械だと思える人じゃなかった。
それがわかっていたのに、それを信じていたくせに、
こんなことをさせてしまったあたしって、一体何なんだろう。
「失いたくない」「この人を好き」というだけで、
この人を縛る権利がどこにあったんだろう。
そのときはまだ、ここまではっきりと考えることはできなかったけど。
やっぱりダメなんだって、理解ることはできて。


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どうして、失ってでも進まなくちゃいけないことが、わからなかったんだろう。




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