風太郎ワールド
昼間家にいると、ろくなことがない。
職業柄、翻訳などの仕事で家にいることも多いのだが、困るのが、こちらの都合を無視してかかってくる電話だ。今日の夕方もそうだった。
「私、Tと申しますが、風太郎さんいらっしゃいますか?」 <T?聞いたことのない名前だ>
「私ですが?」
「あ、そうですか。私、総合商社SのTと申しますが、ちょっとお時間よろしいですか?」 慇懃だが、話の要点がハッキリしない。
「あの、ご用件は何でしょうか?」
「はい、あの、ちょっとご説明をさせていただきたいと‥‥」
「セールスですか?それとも、勧誘?」
「いえ、今日はそういうことではなくて‥‥」
「じゃ、どういうご用件で?」
「だから、時間をかけてご説明を‥‥」
「今、忙しいから」
「では、いつがよろしいでしょうか?明日なら時間ありますか?」
「いや、今日か明日かという問題じゃなくて。用件は何なの?」
「ですから、説明しますので」
「説明はいいから。用件がなければ、電話しないで下さい」
「用があるから電話してるんです」
「じゃ、何なんだよ、用件は!こんな電話につきあってるヒマないんだよ」
「だから、説明を‥‥」
「もういい。電話しないでくれ!」
まだ粘る。いい加減しつこい。ついに頭に来た。
「もう電話してくるな、ボケ!」
思い切り電話を切った。多分あまりに腹が立って、切る時に「死んでしまえ!」とも叫んだようが気がする。(暴言、反省してます) ^^;
不況だからか、最近こういう電話が多い。
数日前も同じように、用件のハッキリしない男が「ちょっと説明を」としつこい。「結構です」と言って電話を切ると、またすぐかかってくる。「もうかけてくるな!」と怒鳴って切っても、またすぐかかってくる。そして、「何で電話を切るんだ?」と逆ギレしている。話し方もだんだんチンピラのようにぞんざいになってくる。
あのね、人の時間に勝手に侵入してきて居座られたら困るのよ。いい加減諦めろ。
数年前には、例の大和都市管財からも電話で「有利な投資」の話をもちかけられた。怪しい話だということはすぐにピンと来たが、紳士的にちょっと話を聞いてやったら、こいつは食いつくとでも思ったのか、熱心に延々と説明する。そして、数日後分厚い資料が郵送されてきた。もちろん、読みもしないでゴミ箱行き。
だいたい、怪しい金儲けの話って必ず、「高利回りで安全確実」って言うんだよ。だって、カモ、いや、お客がそれを聞きたがっているから。だけど、世の中そんなにおいしい話は絶対にない。
ステークが高ければリスクも高い。リスクが低ければリターンは少ない。この両者は必ず相反する。それがリスクの経済学なのだ。お金が儲かるメカニズムを説明しないで、バラ色の結果だけを売り込む儲け話はすべて危険なのだ。
夕方の電話のあと、暴言をはいた反省と、最近やたらに多い詐欺まがいの電話に対する怒りで、何も手につかずボーっとしていたら、また電話がかかってきた。
またヤツか、と少し身構えたが、とりあえず電話をとる。 無言。しばらくしてから、電話の向こうで低く押し殺した声が、
ひとこと言うと、電話が切れた。
それだけか?たったそれだけか、仕返しは?可愛いヤツやのう。
もっと嫌がらせでもしてくるかと思ったが、こいつはチンピラ詐欺師としてはまだ半人前なのだろう。
見たこともない相手にケンカを売ることは、あまり褒められたことではない。下手をするとストーキングされたり、ネットで風評を流されたりする危険性もある。
しかし、ヤツは自分の名前も会社名も名乗った。しっかりノートに記録してある。手も足も出せないだろう。
それにしても、昼間家にいるとろくな電話がかかってこない。
目次|前のコラム|次のコラム
|