風太郎ワールド
2003年06月06日(金) |
女性に対する褒め言葉 |
アメリカ留学中に知り合ったK氏。途中でシカゴに移り、ヌード・フォトグラフィーを勉強するようになったのだが、その彼女をある時別の女友達といっしょに訪ねた。もう20年近くも前だ。
ひとしきりお互いの生活や共通の知り合いの近況などを話したあと、彼女が「どうしようかな」と一瞬ためらってから、「見せてあげようか?」とB5サイズほどのポートフォリオを取り出した。
自分の作品でも見せてくれるのかなと覗き込むと、なんと彼女自身の写真。それも、何も身につけていない‥‥。
プールの中で気持ちよさそうに天を仰いで浮かんでいる。微笑んでいる。水の中で素っ裸で戯れる彼女の写真は、ボカシもなく、ヘアもはっきりと写っている。
その彼女が今目の前に座っている。私はただ驚いて、感動して、そしてうろたえて、彼女の顔を真っ直ぐに見ることができなかった。
まだ日本ではヘアヌード写真など解禁されていない時代だ。私はと言えば、こっそり隠れてプレイボーイなどを見ているような恥じらいのある20代。
彼女の説明によると、クラスの課題でヌードを撮らなくてはならないのだが、モデルになってくれる人もいなければ雇うお金もない。そういう人は、学生同士で撮り合いをするのだと言う。
K氏は元々美人系だが、まったく何もまとわない姿も飛び抜けてきれいであった。私は、彼女の形の良い胸や、くびれた腰や、きれいに揃ったヘアや、プロポーションの整った体をとても美しいと思った。
いやらしい気持ちはまったくなかった。それは断言する。絶対にいやらしい気持ちはない。天に誓って。
彼女はこちらを覗き込んで何か反応を待っているようだったが、何と言っていいか私は言葉が見つからない。あせって、思わずつぶやいた。
男としては「最上の褒め言葉」のつもりだった。しかし、彼女はそれが気に入らなかったようだ。
「もおう。男はすぐそんな目で見るんだから。だから見せようかどうか、ためらったのよ。これは芸術作品なのよ。もう見せてあげない。Mちゃんだけに見せてあげる」
私の前から写真を取りあげると、横に座っている別の女友達と二人だけで、あれこれ写真を指さしてページをめくりはじめた。
い、一体、何が悪かったの???
俺は、褒めたつもりだったのに‥‥。
あのお、決してポルノとして見ていた訳ではありません。芸術的な美しさだと思っただけで‥‥。あのセリフって褒め言葉にならないのね‥‥。
そういやあ、大学生の頃にも、似たような経験をした。美人で有名な後輩がある日、お嬢様のようにおしゃれな格好をして大学に来た。誰もが振り返るほど美しさが際立っていた。
いつもは女性の外見にコメントすることなど全くない私だが、思わず褒めてあげたくなって、「Aちゃん、きょうはきれいだね」と言うと、ぷっとふくれて怒ってしまった。
な、何で?褒めたのに‥‥。
「『きょうは』って‥‥まるでいつもは汚いみたいじゃないですか」と抗議されてしまった。なるほど。もっともだ。俺の言葉が足りなかった。
じゃ、なんて褒めれば良かったのだ?仲の良い別の後輩に聞いてみると、「先輩。そういう時は『きょうもきれいだね』とか、『きょうは、一層可愛いね』と言わなくちゃだめですよ」と言う。
なるほど。比較級か。言葉は微妙だな。特に女性のことを評する時は、徹底的に気をつけないと。
もしかしたら私は、そういう微妙な表現に鈍感なのかも知れない。そういえば、女性達が急に黙りこんでしまったり、表情から笑顔が消えたり、いつからかまったく連絡もしてくれなくなるというのは、どこかで「きょうは」と「きょうも」を間違えたからなのかな‥‥。
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