風太郎ワールド


2003年04月18日(金) 妄想だけでがまんしなさい

幸か不幸か、私は貴重な思春期を中学・高校一貫の男子校で過ごした。

一部の「不良」を除いて、ほとんどの生徒はあまり女性との縁はなかったようだ。

サッカー部のある先輩が高校卒業後に語ったところでは、彼が6年間で話をした女性は、母親以外には購買部で働いていたおばちゃんだけだったらしい。

このあまりに不自然な環境に憤慨し、私は中学2年生の時、男女共学化運動をはじめた。女性がいない環境は成長阻害要因だとかなんとか、ホームルームで盛んに論陣を張った。

しかし、ある時学校の帰りに、背後から追いかけてきた同級生の一人。

「風太郎、お前学校が気に入らんようやな。そんなに嫌なら、お前が出て行けばいいじゃないか。俺たちは満足しているんだから」

なるほど、理に適っていた。所詮自分で選んで入学した私立校だ。それきり私は一切口をつぐんで、男子校に甘んじた。

なんだかんだと言いながら、今振り返れば、男子ばかりの環境にもそれなりのよさがあった。

*    *    *

現代国語の教師Oは、生徒に人気があった。

ある日の授業中、悪ガキの一人がこっそり教室を抜け出して、パチンコに行こうとした。

そっとドアを開こうとしたその瞬間、O先生、朗読していた教科書から目も離さず、
「スガワラ!負けて帰って来るなよ。それから〜、タバコは校門の外で始末しとけ」

スガワラ君、恐縮して出て行ったが、5時間目には、景品を抱えて授業に復帰した。

*    *    *

さて、このO先生。ある時、授業中にこんなことを宣うた。

「君らな。学校に女の子がおらんで、残念や、物足らんと思うとるやろ」
みんな神妙に聞いている。

「ところがだ。これは文学にとっては、最高の環境なのだ」
はて?

「女の子がいない。女の子が欲しい。想像が湧き上がる。憧憬を抱く。妄想が生まれる」
そのとおり。だから不自然なんじゃないか。

「そういう心の葛藤こそ、素晴らしい文学を生む土壌なのだ」
こじつけじゃないの?

「君らも大人になったら、よ〜く分かる。現実の女は、そんなに憬れるものでも、特別なものでもない。実態を知れば、夢もヘッタクレもあったもんじゃない」
そんなもんかいな。まだよく分からんな。

「わしらくらいの年になるとね、君たちのように、何も知らなかった時代が、それはもう懐かしくて。うらやましいねえ、君たちが。夢があって。そこから文学が生まれる」
はあ〜?

「いいか、諸君。今この時期に、妄想をたぎらせよ。のたうちまわれ。肉体の苦しみに耐えよ。心の叫びをよく聞け。そして、素晴らしい文学を書いてくれ。君たちこそ、次の時代の文学を担っていくのだ!」
先生は?



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