風太郎ワールド
中学入学以来英語に夢中になった私だが、学校の英語はあまり楽しめなかった。授業には身が入らなかった.期末試験でとんでもない点数を取ったこともある。 さて、高校時代の同級生に、スガワラ君という男がいた。ぬいぐるみのようにぷくぷくした憎めない男で、柔道部所属の黒帯保持者。 学校をサボったり抜け出したり。隠れてタバコを吸ったり、パチンコしたり。不良のようなことをするのだが、別に暴力を振るうわけでもカツあげするわけでもない。普通に学校生活に溶け込んでいた。 しかし、宿題は手を抜く。授業中に前や後ろの連中とコソコソ話をする。落ち着きがない。 ある日の英語の授業中。後ろの生徒にちょっかいを出しているスガワラ君を、Hビンが逃さなかった。 「スガワラ!次。はい、訳して」 すばやくスガワラ君を仕留めると、Hビンはフフッと不気味な笑みを浮かべた。 さて、スガワラ君。立ったはいいが、当てられた場所がわからない。うろうろ周りを見渡したり、照れて苦笑いしたり、横の男に小声で尋ねたり。 Hビンにとっては、小言の絶好のチャンスだ。 「スガワラ、何しとんねや?ちゃんと聞いとったんか?」 スガワラ君、平身低頭、ペコペコ頭を下げている。 「いつもいい加減なことばっかりやっとるから、お前はダメやねん。情けないヤッちゃのう」 スガワラ君、しきりに頭を掻く。 「ほら見てみぃ。そんな調子やから、社会の窓も開いとるやないか。だらしがない。しっかりせんかい」 スガワラ君、恐縮して股間のファスナーを引っ張りあげる。 そして、次の瞬間。顔を上げたスガワラ君が、ニヤッと笑った。 一瞬凍りついたように静まり返る教室。立ち尽くしたまま、言葉も出ないHビン。 しばらくして、下を向いた生徒達の間から押し殺した声が少しずつ漏れてきた。その中で、勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべるスガワラ君。まるでスポットライトを浴びるスターのように、光り輝いていた。
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