NORI-☆
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超変身!
かわいいガラス鉢に居を移したザリガニの三郎、 くるくる変わる環境にかなり警戒しているのか、 あまり動かない。 「ザリガニも、寝るんだな…」 朝、鉢を覗き込んでパパが言った。 「ん?まだ眠ってる?」 「いや、違う、横になってるんだ」 「?」 どれどれ、とサトとママが覗きに行くと、 確かに浅い水の中に横倒しになってじっとしている。 「なんか元気ないなぁ」 とパパが心配そうに鉢をコツコツ叩いても、 今日の三郎はちょっとひげを動かしただけで、 起き上がりもしなければもちろん威嚇ポーズもしない。 「新しい環境だから様子見てるんじゃない? だって、夕べやったエサは全部食べてるし…」 ママはいたって無責任である。 しかし、サトが立ち去ったあとでパパがささやいた。 「部長がさぁ、“ザリガニって、すぐ死ぬんだよな” って言うんだよ。誰に聞いてもそうなんだけどさ」 そうなの? だって、ザリガニってなんかしぶとそうじゃない? 金魚とかに比べると身体だって固いわけだし… ママはむしろ、パパが会社で部長からザリガニ飼育の アドバイスを受けていたことの方が面白かったのだが、 パパはかなり心配だったらしい。 死んでしまったら、サトががっかりするに違いない、と。 さて、その夜のことである。 一応、パパの心配もあったので、 帰ってすぐ、ザリニ鉢の蓋をとって覗いて見る。 横向きから通常モードの腹ばい(?)ポーズで 水の中に静かに沈んでいる。が、確かに動きは少ないみたい。 「生きてるかぁ?」 声をかけると、かすかにひげとハサミが動くので一安心。 やはり朝やったエサはなくなっているので、 そういう意味では元気なんだと思うけど… 「食べないよぉ〜」 自分の夕食が終わって、ザリガニにエサをやりながら、 サトシが不満そうに言う。 人が見てる前では食べない主義らしい。 保育園ファミリーの夜は短い。 帰宅して、大急ぎで夕食を用意して食べる。 食後、ママはお風呂を沸かしたり洗い物をしたり、 日によっては洗濯機を回したり、と家事に追われる。 子供たちにとっては、この時間帯が遊び時間である。 お絵かきをする、電車で遊ぶ、ビデオを見る、 最近では「図鑑を読む」のもサトシの楽しみの一つだ。 その横でヨシキはソファによじ登りクッションを蹴落としたり、 ニイニの遊びに手を出して怒られたり、自分の絵本を開いたりする。 ときに争いが起きても、なるべく二人で解決する(?)に任せて… 30分くらい経って、そろそろ出窓のカーテンを閉めよう とリビングに戻てきたママ、ザリニ鉢を覗いて叫ぶ。 「おおおっっ!!」 「どうしたぁ〜?」 のんびりと顔を上げるサトにママは微笑む。 「サト、来てごらん!ザリガニが2匹になってるよ(^^)」 「ほんと?」 全然信じてない顔で、歩み寄ってくるサトシに、 ママがニヤニヤ笑いながら場所を譲る。 「……ほんとだ…どうして??」 そこには、薄茶色の身体を静かに横向きに沈めている1匹と、 黒っぽい身体で腹ばいでじっとしている1匹……。 脱皮って本当に不思議。 頭から尻尾まではもちろん、足の一本一本、 細長いひげまでちゃーんと、直前の姿そのままに そっくり抜け殻にしてしまうなんて。 一段色が薄いのと、中身がなくて底の砂が透けて見えることを除けば、 本当に、もう一匹増えた、と思ってしまうところだ。 一皮むけた三郎は、まだ足や尻尾が伸びきらない様子で、 水の底にじぃっとしている。 大きさも、まだ抜け殻と同じくらいに見える。 でも、これから大きくなるのね。 …と、心なしか透き通ったように見える新しい足を じわじわと動かして、少し水底を移動した。 (よかった、生きてる…) 脱皮したのは生命の摂理だし、 もちろん三郎本人の成長と努力によるものである。 しかし、なんとなく自分の手柄のような気がして、 ママはパパの遅い帰りを待った。 サトははじめてみる「脱皮」という現象には さほど心を動かされたようでもなかったので、 これは絶対、パパには私の口から伝えなければ、 と固く決心していた。 「ザリガニ、どう?」 という問いに待ちかねたように、 「脱皮したんだよ! みて、みて!!」 と出窓に引っ張っていく。 (パパに見せなきゃと殻を鉢の中に残してあった) しかし、パパの反応は思ったよりつれないものだった。 「…へぇ……何で脱皮なんかするのかな」 (なんだ、その反応は?!) いや、それは確かに、ザリガニが脱皮したからといって、 私が誉めてもらえるとは思わないけど、 でも、「何で脱皮なんかするのかな」はないだろう! もうちょっと感動しないのか! うちにきてわずか3日目で脱皮したんだぞっ!! 「まだちょっと足とかやわらかい感じなんだよ、 尻尾もなんかうまく動かないみたいで…」 ちょっとむっとしながらも、 観察したことを一生懸命話してしまう。 「ほんの30分くらいの間だったんだよ。 ずーっと見てれば脱皮の瞬間を見られたになぁ…」 ……私って、まるでサトみたい(^^;) 説明を聞きながら、 なんか胡乱そうにザリガニを見ていたパパ、 寝る前にもう一度言った。 「なんで脱皮なんかするのかな…」 まだ言ってる! 何なの、その反応は? ザリガニが脱皮したことがそんなに不満なわけ? いよいよむっとして黙っていると、 パパのつぶやきが続いて聞こえてきた。 「せっかく固い殻ができたのに、 なんでまた、わざわざ柔らかい身体になるのかな?」 「へ? 身体が大きくなるためじゃん?」 こちらもなんでいまさらそんな疑問を? と思いつつ答えると、 「……!!そうか!そうなのかぁ」 と急に声が明るくなった。 心底そのことが疑問だったらしい。 パパは科学の人なのである。
2001年06月02日(土)
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