WELLA DiaryINDEX|past|will
インスブルックは山に抱かれた街である。フランクフルトからプロペラ機でごとごとと1時間半、常に陸地を眼下に見ながらゆっくり飛んでいくと、やがてゆるやかに蛇行する河に沿って細長く開けた土地へと入っていく。闇に白い漆喰の壁を浮かび上がらせる古めかしい街並みへ、低く低く飛行機は近づいて行き、やがて細長い街の先、U字谷の底にある空港にぶるぶるぶると唸りながら着陸した。 Innsbruck。イン(Inn)川にかかる橋(bruck)という意味だという。どこでも同じような由来の名前をつけるものだと思う。平地に流れる河が適度な幅と流れをになった時、人はそこに橋を作り、対岸との交流を始めるのだろうか。 1964年と1976年と2度の冬季オリンピックを開催した国際都市とは思えないほど、小さい空港である。もっともヨーロッパのほぼ中央に位置するチロル地方の中心であり、東西のヨーロッパを結ぶ鉄道の要所でもある。欧米の選手が殆どを占める冬季オリンピックでは飛行機の出番はなかったかもしれない。空港のATMでいくらかユーロを引き出す。まだ新札ばかりである。タクシーでホテルへ。 スキー客でごった返すロビーを抜け、チェックインを済ませる。あてがわれた部屋は最上階の屋根にあたる部分。両開きの窓を開いてベランダに出ると漆黒の闇に星が瞬いている。しんと静まり返った夜気が入り込んでくるが、あまり寒くはない。ベッドの上に羽毛掛け布団が一人分ずつポンポンとたたんで置いてある。ドイツ式というのだろうか、まさに一人分の幅しかなくて日本の布団よりも細い気がするが、面倒な割に寝苦しいだけのベッドメイキングよりずっと合理的だと思う。これを見ると昔、学生時代に夜行電車で一人ケルンの街についた朝、ガイドブックの切れ端に載っていた安いホテルで小さなベッドでちいさな羽根布団に包まって寝たことを思い出す。 ぱたぱたとシャワーを浴び、顔を洗い歯を磨き、目覚ましをセットして、小さな羽毛布団にばふっと包まってまずは眠ることにした。
|