WELLA
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2001年03月15日(木) 「一所懸命」

自宅から最寄駅までの道のりは幹線道路沿いをただひたすらに歩くのだが、その大型車が轟々と走り抜ける脇にひっそりとたたずむようにいくつか店が並んでいる。店といっても普通に日常品を売る店はごく駅の近くにしかなく、後はバイク屋、美容院、板金屋、畳屋など、職人というか家内制手工業的の作業場があるような店がいくつか並ぶ。

ここに越してきたばかりの頃、そういった店を物珍しさで通りすがりに何気なく覗いたりしていたのだが、そのうちの一つに看板もなく人の気配も希薄な店があった。何屋というのかは知らないが、ガラスを切ったり鉄板を曲げたりする雰囲気である。それは木造の古びた二階家で、通りに面してガラス戸があり、大きな作業台をしつらえた土間になっている。その奥は一段高いところに曇りガラスのはまった引き戸で仕切られており、多分その向こうはちゃぶ台とテレビがあるのだ。

ある日の午後、出先から戻る途中に習慣のようにその店を覗くと、びっくりするほど小柄なおじいさんがガラス戸の中にいた。作業エプロンをつけ、襟元にタオルを巻き、腰は少し曲がっている。例の作業台に向かって立ち、インスタントコーヒーをいれるところだった。手に持った徳用サイズのコーヒーの瓶が、そのおじいさんには不釣合いなほど大きく見える。同じインスタントコーヒーの銘柄でも安い部類に入るものである。テーブルの上におかれた同じ徳用サイズの空き瓶には白砂糖が詰まっている。その脇にこれもまた徳用サイズの粉末クリームの瓶が置いてある。
はっと思って時計を見ると午後3時ちょうど、一瞬にしてその人の日常生活が浮き上がってくる光景だった。

ああ、きっとこの人は毎日朝から一人で働き、お昼を食べ、また一人で働き、こうやって決まった時間にささやかな楽しみとして自分のためにコーヒーをいれるのだ。そして一服してまた夕方暗くなるまで寡黙に働くのだ。轟々と騒音のする脇で、十何年、何十年と同じ営みを繰り返してきたのだろう。この人にとっては人生とはまさに日々の積み重ねなのだろうと思う。「一所懸命」という言葉がしっくりくる、そんな一コマを垣間見た。



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