WELLA
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2000年08月04日(金) 第4話 ボストン茶会事件

宿泊先はボストンの市街地からは少し離れた埠頭付近にある。ホテルの内部こそ近代的設備がそろった快適な空間だが、一歩外へ出ると人通りはまばらで車通りは激しく、廃屋と再開発らしき工事の他は何もないところだ。ボストン、という言葉の響きから受ける古い落ち着いた佇まいとは裏腹な立地である。
さて、やっと観光(というより探索)の始まりである。ガイドブックや地図を片手にひたすらあたりを歩き回る。新しい場所に引越した猫になった気分である。(c.f "What's Michael?") 地図を見ると、最寄りの駅まで歩くなら街の中心部まで行っても大差ないようなので、今日一日ひたすら歩くことに決める。

まず見えてきたのは古風な帆船である。近づいてみると傍らの小屋に「BOSTON TEA PARTY」と書いてある。おお、世界史で習った「ボストン茶会事件」か。
ボストン茶会事件とはこれまたわけのわからない直訳をしたものだが、つまりイギリスからの紅茶に対する高い関税に怒ったボストン市民が原住民を装って闇に乗じて停泊中の船を襲い、積み荷の紅茶を海に投げ捨ててしまったという歴史的な事件である。別にここでお茶会があって、事件が起きたわけではない。
この船で事件を再現したアトラクションが行われるらしい。植民地時代の扮装をした女性が案内をしている。船の隣りには「集会所」があり、植民地時代の扮装をした男が、群集(客)を前にさかんにアジテーションをしている様子を外から見ることができる。
群集は男が何か叫ぶ度に、「HEY、HEY!」と拳を振り上げて呼応する。日曜日なので頼みの衆もずいぶん集まったようだ。何を叫んでいるのかは分らないが、おそらく「イギリスの圧政ゆるすまじ〜」とか「もっと安く紅茶を飲ませろ〜」とか「やってらんねーぞー」とか叫んでいるに違いない。
いよいよ船の襲撃となると、群集の興奮状態は最高潮である。昔やった「インディアンごっこ」のような赤い羽根飾りを全員が頭につけて原住民に変装する。「HEY、HEY!」も熱を帯び、階段を降りながら男が「Watch your step!」と注意しても「HEY、HEY!」と拳を振り上げる。
船に乗ってから、つまり襲撃してからもアジテーションは続き、最後に代表者二人が積み荷の紅茶(のつもりの箱)を二つどぼん、どぼんと投げ入れてアトラクションは終わりである。積み荷にはロープが括り付けられているので何度でも使うことができる。

脇にある売店に入ると、ボストンはいろいろな面を持った街である、と思う。
このアトラクションに見られるような、アメリカ最古の街の一つとしての歴史的な面、色濃く残るヨーロッパ的雰囲気、ハーヴァード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)に代表されるアカデミックな街、そしてロブスターなどシーフードが豊富な港町、などであり、それらは観光客相手の絵葉書やTシャツのデザインから見て取れる。夥しい数のハーヴァードTシャツやロブスターのぬいぐるみやマグカップの他に目立つのは、紅茶やティーポット、カップの類である。「ボストン茶会事件」=「お土産に紅茶」?。それはあまりに安易では…。
あなどるなかれ、これらの紅茶は無税なのだ。


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