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バスは町中にやってきた。窓から外を見ると、古い煉瓦作りの倉庫のような建物に人々が入っていく。大人も子供連れの女性もいる。「さあ、どうぞうどうぞ」というように人々を招じ入れる係の男性も何人かいる。何か集会があるのだろうか?と、バスが止まる。一人降りる準備を始めたので、そこに座る、と他の乗客も次々と降り始める。運転手が何やら大声で説明している。 あれ?ここが終点なのか?はぁ、また聞き取れなかった。 とりあえず駅は向うだ、と説明しているので、そちらの方向に歩き始めることにする。あっちか?こっちか?と指差していると、「お力になりましょうか?」と男性が話し掛けてくる。見ると、先ほどのインテリ女性の連れのようである。こちらも負けず劣らずインテリな男性である。人込みを縫って早足に歩く二人のあとを転がるようについていくと、先ほどの古い煉瓦建ての建物に入っていく。あれれ?これが駅だったのか。 男性はそこに待ち構えた駅員に、「Can I ask some questions?」と話し掛ける。駅員は「Yes, you can!」と答えてにっこり笑う。なんとも礼儀正しい会話である。インテリ男性は私たちの分も質問してくれ、ついでに路線図で一緒に確認してくれる。我々が理解したと見ると、また驚くべき早足で二人はホームを目指して歩き去っていった。どうやら彼らも地元の人ではないらしい。旅先で人の情が身にしみるのはこういう時である。 ホテルは駅の近くだというので安心していた。が、目的の駅を降りてもそれらしき建物は見当たらない。ホテルの地図とガイドブックを突き合わせてやっと彼方にあることがわかる。怒る私に、案内にはminute walkって書いてあったといいはる夫。証拠の紙を出させてチェックする。…複数形のsを見落としていたらしい。力なくとぼとぼとホテルを目指して歩いて行く。行く手に飛行機が離着陸するのが見える。それって、それって、空港のすぐ近くってこと? チェックインを無事済ませ、機内でおやつに配られた「赤いきつねミニ」を夕食として仮眠をとる。件の飛行機が着くまでまだ小一時間ある。はぁ、いったい空港からここまで何時間かかったのだろう。 目覚まし時計にたたき起こされ、身支度をしてタクシーに乗る。ホテルのフロントの話では料金は10ドル程度だという。そんなに近いのか。夜ともあって、渋滞もなく、10分もしないうちに空港の敷地内に入っていた。トンネルを抜けるとそこはもう空港だったのである。運ちゃんが「どの飛行機に乗るんだ?」と聞く。ターミナルDに行ってくれ、というとそんなとこから出る飛行機はない、と怪訝な顔をする。「出発じゃなくて、到着にいきたいんだ〜」と叫ぶと、ちょうどいい場所に止めてくれた。 飛行機が着いても、荷物が出てくるまで時間がかかるので遅めに出たのだが、コンベヤーのあたりは閑散としている。荷物が届いている気配はない。電光掲示板を見ると、9時45分着の便は更に1時間近く遅れて到着することになっている。いったいいつまで待てばいいのだ。一応周りに置いてある荷物を確かめて、再度バゲージクレームに行く。係りの女性は私たちのチケットを見て、いったいあなたたちどこからここまで来たの?と驚く。いや、これがキャンセルになったからその一つ前ので来たんだけど、荷物がこないので取りにきた、というと、私もさっき交代したばかりで事情がよく分からないけど、乗ってるとしたら次の便でしょうから、あと1時間ぐらいね。ここで待ちます?ここで待つなら食事券を出しますから、空港内でコーヒーでも飲んで待ってくれれば…、と食事券の金額を見ると10ドルと書いてある。高額である。すかさず「待ちますっ!」と答えて10ドルの食事券ゲット。 とはいうものの、空港内のレストランやショップは軒並みしまっている。唯一まともな店はダンキンドーナツだけ。10ドル分使いきるつもりで今飲む用にココアとコーヒー、明日の朝ご飯用にドーナツ半ダース、あまったお金でミネラルウォーターを頼む。店の人も夜中の上客にご機嫌である。清算するとさらに1ドル50セントあまっているという。「コーヒー?、コーラ?」など、向うも買わせる気である。結局小銭を足してミネラルウォーターをもう一本買った。 ロビーでおとなしくドーナツを一つずつ食べ、飲みものをすすっていると、待ちわびた便が到着した。そこからさらに待って待って待って、もしかしたらもう荷物は永遠に届かないのではないかと思い始めた頃、夫のスーツケースがひょっこり顔を出し、まもなく私のキャリーバッグも姿をあらわした。思わず二人で固い握手を交わす。 帰りのタクシーは更に順調に走り、5分後にはホテルに着いた。よろよろと部屋に戻って時計を見ると、もうすぐ十数分で12時を迎えるところだ。日本時間ではもう翌日の昼過ぎである。長い一日はなんとか日付が変わる前に一件落着。終わりよければすべてよしである。
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