WELLA
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1999年01月03日(日) お正月

年が明けた。お正月といってもこちらでは、Merry Christmas and a Happy New Year!と挨拶するように、新年もクリスマスもいっしょくたである。クリスマスが済んでも、3人の王がキリストの誕生を祝って貢ぎ物を持ってきたという十二夜(Twelfth−Night)が控えているので、1月6日まではツリーも街の飾り付けも基本的にはそのままなのだという。
同じイギリス国内でもスコットランドはかなり派手に新年を祝うようだが、イングランドでは休日は1月1日(New Year's Day)だけだし、大晦日(New Year's Eve)以外は特に盛り上がる行事はないようだ。(日本でも基本的には祝日は元旦だけでしたね。三が日は慣習的な休みでした。99.01.05追記)

ロンドンのトラファルガー広場などではカウントダウンが行われ、夜通し電車やバスが走り、いろいろな店も開いているらしいが、ケンブリッジはどうなのだろう。訪問研究員のアメリカ人たちに、仲間の家に料理を持ち寄ってパーティーをするので来ないかとも誘われたが、それもおっくうなので家でおとなしくテレビなどを見ていた。イギリス版「ゆく年くる年」のような番組もあり、零時の時報とともにスコットランドのエジンバラ城での花火の様子など映し出されてくる。近くの公園からも花火の音が響いてくるが、やがて静かになった。やはり行事としてはカウントダウンぐらいなのか。Happy New Year!と言い合ったあとは、なんとなく浮かれて飲んだり騒いだりするらしい。元旦は睡眠不足を補う日なのだそうだ。

年が改まったところで日本に電話をする。東京は晴天だそうで初日の出が見事だったとか富士山がきれいだという話を聞く。
一夜明けてこちらも晴天である。存分に朝寝坊したので初日の出は拝んでいない。といっても、東京で初日の出を見たという話を聞いた後だと、なんとなく使いまわしの気がしてありがたみがない。
好天に誘われて外にでる。バーゲンの成果らしい買い物袋を下げた家族連れが歩いている。クリスマス休暇は家族が集まって過ごすので、孫を連れた老夫婦の姿もある。華やいだ雰囲気はないものの、お正月らしい気持ちのよい午後である。

ケム川沿いの古いガスタンクの脇を通りかかると、音楽が聞こえる。音のするほうに行ってみると、レンガ作りの古ぼけた建物があり、Cambridge Technology Museum と書いてある。30年ほど前まで使われていた下水処理場らしい。年に何回か一般公開していて、今日はその日なのだ。入り口上部に1894年と入っている。ヴィクトリア朝時代である。
パンフレットには、ケンブリッジを訪れたヴィクトリア女王に「あの、川にぷかぷか(いくつも)浮いている紙切れはなあに?」と尋ねられたトリニティカレッジの長が「えー、これらは川で水浴びをしちゃいかんという注意でございます」と答えたというエピソードが載っている。というわけで作られた下水処理場である。
中にはガスや水蒸気を動力としたさまざまなポンプがある。屋外にも何種類かの手動ポンプがあって、子供たちが遊んでいる。小学校の理科でチャチな歯車やクランクを教材で使ったが、実際に動いているのをみると、ああ、こういう風に使うのねということがしみじみと分かる。
巨大な歯車が回り、大きなピストンが動く様子は見ているだけでワクワクしてくる。油でテラテラと黒光りする部品、真っ赤に燃えるボイラーの炉、白く噴き上がる水蒸気、大きな音を立てて動く鉄の塊。
ケンブリッジの町外れの下水処理場ですら、これである。明治維新の頃、欧米視察団の一行はさぞ肝を潰したことだろうと思う。

博物館を後にして、さらに川沿いに少し歩いたところにあるパブに入った。街の中心部から離れているので、近所の常連客ばかりのようである。みんな三々五々集まってビールを飲み、楽しげに語らっている。居合わせた知合い同士が新年の挨拶を交わしている。青年と老人がHappy New Year!と握手をしている。黒い大きな犬がテーブルの下でおとなしく寝そべっている。皆に挨拶をしながら一足先に帰る男性がいる。話の輪が大きくなるごとに他のテーブルから椅子を持って行く世話好きの女性がいる。少年が犬とじゃれているのを大人達が笑って眺めている。
のんびりとした元旦である。


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