WELLA
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1997年12月21日(日) 第11話 挨拶をしよう

一日目の観光を終えてホテルに戻ってきた。
かっぷくのよいドアマンが陽気に迎え入れてくれる。このホテルの従業員は誰も彼もみな応対がいいのだが、なかでもドアマンはとびきり愛想がいい。出かける時は元気よく送り出してくれるし、戻ってきた時も「お帰り」というように迎えてくれる。
ネパールでの挨拶は、おはようもこんにちはもこんばんわも 「ナマステ」 である。ついでにいうと、さようならも「ナマステ」でいいらしい。ということは通常交わす挨拶はあとは「ありがとう」ぐらいのものである。
ならば、である。是非「ありがとう」も覚えようではないか。どうせほとんど英語が通じるのならその二つで十分である。早速ガイドブックの巻末にある「付録:よく使うネパール語」を見ると、「ありがとう」は「ダンネバード」とある。
ガイドブックを開いたついでにネパールの国の位置を見てみると、奄美大島と同じぐらいの緯度であると書いてある。

あまみおおしまぁ?

…ずいぶんとまた南である。気候は亜熱帯型モンスーン気候だという。道理で寒くないはずである。鞄につめてきたおびただしい防寒具のことをふと思った。高度は千数百メートルらしい。話が違う。
まあいい。これから山の方に行くし、その時は寒いかもしれないしね。

とにかく「ありがとう=ダンネバード」であることもわかったので、夕食に行くことにした。といっても地理不案内なのでとりあえずホテル内のレストランにする。ホテルの案内によるとチムニーという名前でロシア料理だという。お客はまだ少なく、名前の通り チムニーがある部屋 に通された。 部屋の真中にキャンプファイアよろしく薪をくべる台があって、赤々と火が燃えており、その上部に煙突がある。ロシア料理らしい雰囲気に満足してメニューを開く。
あーどれどれ、魚介類のラザニア、シェフおすすめピッツァ、シーザースサラダ、とりのマリネーetc…。おいしそうだがなんとなくイタリア料理のようである。飲物を聞かれて飲物のメニューを見ると、ワインはイタリアのものが多いらしい。注文が済むと、パンを持ってきた。
間違いない。ここはイタリア料理のレストランだ。あの細長〜い、硬いパンがバスケットに載っている。
まあいい。ロシア料理を食べにネパールに来たわけではないからね。二人で分けるからと言い、サラダと鶏のグリルとホタテ貝のソテーを一つずつ頼む。
おや、牛肉のステーキもある。わざわざ「輸入牛肉のステーキ」と書いてある。ヒンドゥーの国にいる限り牛肉が食べられないという飢餓感がむくむくと湧き上がって来て、思わずそれも頼む。

果たして牛肉のステーキはおいしかった。その他の料理もおいしい。鶏も当然地鶏なのだろう、引き締まっていて味が濃い。付け合わせの野菜もおいしかった。
給仕の度に覚えたばかりの「ダンネバード」と言ってみる。言われたほうは、ちょっと意外そうにクスリと笑って一人言のように「ダンネバード」といっている。
私はどうもこの言葉が覚えられなくて、どうかすると「ダンバネード」だの「バンダネード」だのと言ってしまうのだが、その都度彼らはやさしく笑いながら「ダンネバード」といい直してくれるのだった。慣れてくると彼らの言い方は「ダンネバッド」と言っているようである。
食事が終る頃にはずいぶんすらすらと口をついて出てくるようになったが、他の会話がすべて英語なのにありがとうだけ「ダンネバッド」に切り替えるのは、かなり難しいことである。

食事の途中で入口の方からわれわれに向かって「ナマスティ」と呼びかける女性がいた。ここのウエイトレスの制服を着て、あき竹城に似ている。日本の料理屋で女将が挨拶するような風格である。なんだかわからないが、挨拶をする彼女は本当に我々を歓迎している雰囲気である。営業的な感じはしない。
その他のスタッフもフレンドリーである。かといって慣れ慣れしくはない。これはこのホテルの中だけのことかも知れないな、などと思いながら食事を終え、ネイティブ仕込の「ダンネバッド」を連呼しながらレストランを後にした。
高度千数百メートルでのアルコールはよく回る。


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