WELLA
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1997年10月19日(日) そんなぁ

「里芋掘り」に行った。
町の広報紙に案内が出ていたのを見つけたのである。十月中の毎土日に、千円で五株分掘らせてくれるらしい。場所は町はずれの公民館だという。
役場に問い合わせると、特に予約や申し込みは必要なく、当日現地に行けばよいとのことだった。ぬかるんでいるかも知れないので、長靴を用意するようにいわれる。
朝起きると、秋晴れの畑日和である。長靴を用意できなかったので、懇意にしてくれる近所の家に寄って長靴を借りる。たくさんとれたら分けてあげるね、などといいつつ出発した。
会場となっている公民館のある集落は、普段は忘れ去られているような町境にある。崩れ落ちそうなトンネルを抜け、少し迷って公民館に到着したが、それらしい雰囲気はない。

駐車場の入口の大看板には「きれいな水で育んだ里芋を掘ってみませんか?」と書いてある。建物の中からガヤガヤ人の声がするので入って聞いてみると、会合中。リーダーらしい女性が出てきて、「里芋掘りは終ってますよ」とすまして言う。


…なにぃ?終ったぁ?

落胆の色を隠せない我々に、「ちょっと聞いてみてあげてもいいですけど、もう全部掘り終ってますよ。こっちにあるのは予約のですし」と、とりつくしまもない。目が点である。
あまりのショックに「こういうのって、どこに文句を言えばいいんでしょうねぇ、役場でしょうかねぇ?」と、ちょっとふざけて言うと、反論が来た。
ふざけたつもりでも、私の話し方は素がバリバリの東京弁なので、きつく聞こえるらしい。向うもカチンときたのか
「どうしても文句を言いたいっていうのなら、役場でもいいと思いますけど、こういうのっていうのは、限りのあるもんで、文句をいうとかいうこととは違うと思いますけど?」と、伸ばした語尾をゆらす 土地の言葉でたしなめてくる。

たしなめられてもねぇ…。こっちは今週役場に電話して確認したんだし、役場じゃ時は終りそうなんて言ってなかったぞ。そう言うと「土曜日に大勢きて、それで終りです。何人くるかはこっちもわからないし、限りのあるものでしょ?掘ってしまえばおしまいだし…そういうもんじゃないですか…」と完全に論点がずれている。

ああ、この人には私たちの気持ちはわかってもらえない。
私たちがどんなに芋掘りを楽しみにして来たのか、今どんなにがっかりしているか、里芋の収穫なんて珍しくもなんともないこの人には、わからない。

ご高説有難く拝聴致しました。
…入口の看板の「里芋掘り10月31日まで」という文字を横目で見ながら公民館を出た。
役場に言ったところで、ラチがあかないのは目に見えている。
どうしてこうなるのか。のん気というか無責任というか、この土地のこういうところはずい分慣れたつもりだったが、未だ修行が足りないようだ。
時間がぽっかり空いてしまったので、その先にある小山にガシガシと登って釈然としない気持ちを解消し、さらに車でダート道の山越えをして帰ってきた。気分爽快である。

長靴を返しに行ってコトの顛末を話すと、そりゃ残念やったねぇと、お父さんが山でとってきたキノコを分けてくれた。お母さんは畑にいって「田舎に住んだら、やっぱり土地の人と仲良くなって野菜を分けて貰うのが一番よ」と笑って、山ほど野菜を持たせてくれた。

その晩は、里芋の代わりに色とりどりの野菜が食卓に並んだ。どれもみんなおいしかった。


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