WELLA
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1997年07月24日(木) ある日、森の中

何度も言うようですが、北陸の夏は暑ぅおます。朝日が昇ると同時にジリジリと暑くなってきます。こうなると『暑い』を通りこして『熱い』ですが、空が白みはじめて2時間ぐらいは

すがすがしい

の一言につきます。

去年の今頃、私はその時間帯に自宅から程近い林道を歩いていました。『ろーかるサマータイム』と称して、散歩と洒落こんでいたのです。
針葉樹独特のかおり。草いきれ。小鳥のさえずり。蝉がじーじーと鳴き始めます。砂利道をざっざっと踏みしめながら、歩いて行きます。
気分良く歩くうちに、道はカーブにさしかかります。そこを曲がり切ったとたん、ガサガサっと薮の中で音が… 。


びくっ!


心の中を不安がよぎります。
この辺りは、確かに「 熊に注意 」の看板を目にしますが、クマさんと出会うのは、歌の世界だけにして欲しいものです。


目が合いました。動物です。しかも蹄足動物。鹿のようにみえます。
つぶらな瞳でこちらを見ています。
『ハッ…しまった…』と、なんともバツの悪そうな顔をしていますが、私は虚をつかれて身動きができません。
やがて鹿のような動物は、さっと踵を返すと、固まっている私を残してタッタカタッタカ、蹄の音も高らかに去って行ったのでした。


…鹿…森の中に鹿…。牧場から逃げ出したのか?いや、牧場に鹿はいないし…いや、でも蹄足動物だったよね… いや、いくらなんでも家から歩いて数分で鹿…。

悶々としたまま、やがて秋になり、冬になりました。

春になって、地元の人達と同じ場所に山菜とりに出かけました。意を決して地元のお兄さんに聞いてみることにしました。
『あのぉ、去年この辺で鹿、見たんですけどぉ…』
『あー。おるおる。うちのばあちゃん、こないだ頭殴られたわ』


…やっぱ、いたんだ、鹿。
いや、殴られんでよかったわ。


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