2001年10月21日(日) |
ボタン vol.3 〜 天然100% 〜 |
「大丈夫ですか?」 ボタンのそばのスピーカーからやさしそうな女の人の声が聞こえた。
「だっ、大丈夫じゃない」 俺は心持ち苦しそうに言った。
「大丈夫ですか?」 また同じ調子で女の人が言った。歳は結構若そうだ。
「胸が心臓が痛い。締め付けられる」 僕は現在の症状を伝えた。
「大丈夫ですか?」 また同じ調子で彼女は言った。 彼女はまるでこの状況が解っていないのだ。
ドアを叩くNHKの受信料取立と電話による英会話教室のセールストーク。 それが同時にやって来ているほど酷いのだ。 別の側面で捕らえるとすると、クリスマスと誕生日を一緒にされる勢いである。
「はっ速く!速く!だっ、誰か来てくれ!」 僕は声を絞り出して言った。 搾り出すという表現がこの時ほど適切な時はなかった。
まさにその声の成分を検査すると天然の100%は必ずくだらなかった。 ましてや濃縮還元の100%など取るに足らなかった。
最近は若い者でも濃縮還元の100%を使いこなす奴が増えてきている傾向は特にある。 だが、そんな社会一般の事を考える暇など少しも無かった。 チューブを切って内部を覗いても、半回分の歯磨き粉しか残って無いほど暇は無かった。
搾り出した天然100%の僕の声が届いたのだろう、しばらくして女が悲痛な叫びで言った。
|