2001年08月26日(日) |
小説5 日本指相撲協会 |
今日は休日だから茨木の私の家の近くに支部がある日本指相撲協会に訪問する。
知らない人には断っておくが、指相撲とは自分の親指と相手の親指を戦わせる遊びである。 日本指相撲協会は発足より今年で55年を迎えてますますいよいよ盛んである。 本部を東京渋谷に構えて、全国各地に300支部、会員も100万人はいるらしい。 なぜこの協会が発足したのかは現在でも専門家の間でも議論になっている。 今のところ戦後の復興のための競争心を駈りたてるために、 日本政府が政策の一貫として発足させたというのが通説となっている。
しかし、ついこの前テレビの討論番組で誰かが 「指相撲はアメリカが日本の外への圧力を内に逸らす為に持ち込んだのです。 我々日本人はGHQの作戦にただはまっているに過ぎない」 と言っていた。 私は、ほう。そうかもしれんな。と感心してしまった。
ともあれ、ガラス張りで5階建ての茨木支部にお邪魔する。 私が1Fの受付のお姉さんに支部長の中山さんと会う事になっているんだと説明していると、 わざわざ中山氏がじきじきに1Fまで出てきてくれた。 「どうもはじめましてシバヤマです」 「こちらこそ支部長の中山です」 そして、がっちり握手。
のハズであったが、 その握手の瞬間に中山氏は、僕の親指を、自分の親指と人指し指の間にきっちり挟み、 したたかに数を数えた。当然早口で。 「・・・じゅう」 という中山氏の言葉を聞いて私はようやく現実に引き戻された。 「シバヤマ君甘いよ」と中山氏は言った。 「いかなる時でも気を抜いちゃいかん。この世はいつも戦場なんだ」 やはり支部長ほどになられるお方だ。 映画のタイタニック以来久しぶりに感動した。 素直にこの男をかっこいいと思った。 私はその場で即決で弟子入りした。 指がササクレで痛いことなど忘れていた。 痛みなどデカプリオと一緒に深海に沈んでしまっていたからだ。
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