I君


 家出した妻Tと、この週末に会うと言ってたI君が心配で、その前に話したかったのだが会えず。
昨日は23時過ぎに「あとで電話する」とメールが来たが結局かかってこなかった。
そして今日、22時過ぎてメールが来る。

> ゆうべはねた。ごめん。

「で、どうなった?」

> しばらくこのまま。

「そうですか。うまくいきますように。」

> このままっていうのはべつべつのままってことだよ。

「わかってるよ。」

> いまさらだけどおさえておくべきポイントって何だったの?

「メールではなく電話して下さい。」22:26。

「また寝たわね。」22:54。

23:52、電話が来る。寝てはいなかったらしい。
まず夫婦会談の様子をヒアリング。I君の気持ちを聞く。そしてTの気持ちを理解できたか。
「で、ポイントって?」と先を急ぐI君だが、二人の気持ちとずれたポイントを指摘してもしょうがないので、私の質問ばかりになる。

「ポイントの一つは『離婚はありうるのか』だけど、すぐにはなさそうだね。あと、『週末婚』って知ってる?」
「知らない」
「ちょっと前に流行ったんだけど、忙しい夫婦が週末だけ夫婦らしく過ごすっていうスタイル。
I君とTもそれでいいんじゃないの?Tが働きたいっていうならやらせてみればいいじゃん。
絶対大変なんだから、困った時にI君が助けてあげて、いつでも戻ってこられるように環境を整えていけばいいんだよ。
平日は疲れてボロボロなんでしょ?週末は元気に楽しく会って、I君が良くなっていると思わせればTも変るんじゃない?
その方が今よりお互い快適で楽しいかもよ」
「そうするしかないのかな。でも他に男ができたら終わりだな」
「そうだけど、簡単に離婚や結婚はできないし、Tの愛は完全に冷めてはいないと思うよ」
「本音は違うんじゃないか。ヴィザのためとか」

「よく言うでしょ『釣った魚に餌はやらない』って。それじゃ駄目なのよ」
「失礼だよな。『釣った』とか『餌』とか。金は全部渡してるんだぜ」
「違うよ!お金の話じゃなくて!愛だろ!お金もものも大事だけど愛情を注ぎ続けなくちゃ駄目なの!」
「……」
「TはI君に言わないでくれ、って言ったけど、I君が『変ってしまった』って言ってたよ。I君としてはどうなの?前と変らずやってたのに、って思う?」
「仕事の状況も変ったからなあ。時間が必要なのかな」
「仕事が大変なのはわかる。お金もものも必要だけど、そのために結婚したんじゃないでしょ。Tはそういう女じゃないでしょ。
疲れて帰ってバタンキューなのはしょうがないにしても、優しい一言とか、仕草とか、それだけでも違うんだよ。
そういうのやってた?Tの気持ち考えたいとか、Tを喜ばせたいとか、思ってた?」
「なんでそんなこと桜井さんに言わなきゃならないんだ」
「なにー?!それがポイントだからだよ!一番大事だから!私はTと女同士で腹割って話したんだよ!
愛の問題だって言ってるのに金だろ、ヴィザのためだろって言って、話したくないって、何それ!
TにはI君に好きだから言えないことがあるんだよ。Tは寂しかったんだよ。
給料全部渡して『引越しもやってくれ』って言われても、嬉しくないよ」

「……話がかみ合わないね。
……前に桜井さんが高校の友達を紹介するって言った時『I君は条件が悪い』って言ったよね」
「言った?まあ言ったかもしれない」
「蓄えもない、って」
「そんなこと言ったかね?でもそれは何年も前の話でしょ。
今時『三高じゃなきゃやだ』とか言ってる場合じゃないし、女性の意識も日本の経済状況も変ったんじゃない?
条件を重視する女性もいるけど、Tはそうじゃないでしょ」
「結局みんなそうじゃないのか、って思っちゃうんだ」

やっぱりI君はわかってない。Tにも仕事にも私にも「追い詰められている」と言うけど、思い込んで疑心暗鬼になっているのではないか。
自信を失っちゃってる感じ。男はつらいよ、だなあ。

1時になって眠いから電話を切ったのかと思ったらすぐまたメール。2時近くまで。

> うまくコトバが言えなくなりました。ごめんね。
> 桜井さんはとても大事な人なんだ

「はい。私は大丈夫です。
Tはまだ可能性あると思います。週末婚、うまくやってね。」

> うん、ありがとう。また誘うから、つきあってね。

「あいよー。」

> なんだか従妹みたいだね、桜井さんて

「そうよ。前から言ってるじゃない。」

> また誘うからね。従妹を可愛いと思ってもいいよね?

「どう思おうと自由ですが、そんなことよりTへの愛情表現よ!愛!」

> 僕がどうなろうと従妹は従妹だよ。

「はいはい。」

一言メールでの会話は嫌いだが、I君なので付き合う。
2005年06月26日(日)

抱茎亭日乗 / エムサク

My追加