『北海から来た男』,『隠居邸』 |
21時半過ぎ、I君からメール。
> 一杯、飲まない?
先週15日のこともあるので、
「帰っちゃったはなしよー!」
と釘を刺しておいて支度。
新婚の妻Tも一緒かな、と思ったらI君一人だった。 一杯ならバー『OASIS』にしようと思ったが、ちょっと食べたいとのことで近くの居酒屋『北海から来た男』に入ってみる。
Tとの新婚生活について。今年のお正月に3人で約束したテーブル、パソコン、テレビはまだ買っていないらしい。 そりゃないぜ。 理由を尋ねる私に「ぐうの音も出ません」「いじめてない?」とI君。 「いじめてないよ。説教してるわけでもない。心配してるんだよ。理解しようと思って聞いてるの」と私。
仕事で疲れて引越しも出来ないと言う。 「じゃあTにやらせればいいじゃない。家庭のマネジメントは主婦の仕事でしょう。不安だったら私が一緒に不動産屋に行ってもいいよ」と私。 「そうか」とI君。
ギネス君の話、私のニート状況の話。
24時閉店で追い出されて、駅まで送ろうと思ったら立ち止まるI君。 「一緒にいようよ」 「帰らなくちゃ駄目よ。Tがいるんでしょ」 「いないよ。家出しちゃった」 「へ?そうなの?じゃあまあ話をしよう」 「部屋で話そうよ」 「やだよ。お店に行くよ」
西口方面に歩く。 「Tの他に誰かいるの?なんで仕事ばっかりなの?Tに会いたくないからいつも遅く帰るの?」 「違うよ」 「何のために結婚したの?」 「いじめてるでしょ」 「いじめてないよ。わかんないから聞いてるんじゃん。20年来の友達で日本語で話していても理解し合うのは難しいんだから、Tには過剰なぐらいの愛情表現が必要なんだよ。頑張れ日本男児!」
ラブホテル街に歩いていくI君。 「そっちには行かないよ」と私。 「行ったことあるよね」 「あるよ。覚えてるよ。でも何もなかったじゃん」 「同じだよ、20年前と。話をするだけ」 「行ったらTに話す?」 「話さない」 「じゃあ行かない。Tに言えないことはしない。前に私の部屋に泊まった時も私は(略)君に言えないことはしないと言ったよね」 「あれは10年前だよ。10年前も『10年後に』って話したんだ」 「じゃあまた10年後に話そう」
そして朝までやってる居酒屋『隠居邸』。 「Tのことどうするの?このままじゃ終わるよ」 「話すよ」 「何て?」 「桜井さんの言うとおり、引越しは彼女にやってもらう」 「引っ越して、欲しいもの買って、でもI君は疲れて死んでんでしょう?」 「そう」 「そんなのやだよ」 「土曜日まで。日曜は頑張る」 「何のために働いているのよ」 「生活のため」 「Tには何を求めているの?」 「家庭が欲しかったんだよね」 「どういう家庭よ」 「家に帰ったら人がいるっていう」 「子供作れば?」 「まだやだって言うんだ」 「まあそうだろうねえ」
「その胸は偽物?」と尋ねるI君。 「うん?ちょっと(パッドが)入ってるかな」 「記憶と違う」 「なんで記憶があるのよ。見てもないのに」 「見たよ」 「また言ってるよ!前もそう言って私を激怒させたじゃん。I君が謝ったよね」 「それはあんまり怒ったから。でも見た」 「いつよ!あのラブホテル?確かお風呂がガラス張りだったね」 「そう」 「それは覚えているけど、何かした覚えはないよ」 「酔っ払って忘れてるか、記憶を抹消したんだよ」 「え?そうなの?」
寒気がした。 「……あーなんとなく帰り道『何事もなくて良かった』ってずーっとつぶやきながら帰ったような気もする。無理矢理忘れたのかね?」 「そうでしょ。ちなみに見ただけじゃない」 「げ!触ったかね!」 「触っただけじゃない」
吐き気がした。 「うえっ」 「うえってなるのは、やっぱり従兄弟みたいな感覚だからかな?」 もう止めてくれ。分析しないで!思い出さないで! 「レイプされた人って、このイヤーな感じのもっと激しい嫌悪感なんだろうね」 「……そうかもね」
ああ嫌だ嫌だ。忘れたままでいたかった。というか未だに「本当にそうか?」と思っている。 私が忘れたのかもしれないが、実はI君の思い込みかもしれない。もはやそれはどっちでもいい。 今も多分当時も私にとってI君は大切な友達だが、性的興味は全くない。 I君にとって今大事なのはTじゃないか。もう!
お酒の弱いI君は睡眠不足で眠ってしまう。私はTにメール。
「いま、I君と、はなしてました。 Tはいえをでたのね。 I君はTをあいしてるよ。 うまくいくといいけど、Tはたいへんだよね。 ふたりのしあわせいのってます。」 1時間弱眠っていたI君が目覚めて、タクシーで送ってもらって帰る。
日記を調べてI君にメール。3:15。
「85年12月30日でした。行った場所はわかるけど、それ以上はわかりません。一つ明らかなのは、クリスマスに(略)君に振られているのだな。年を越して仲良くなるんですが。 まあそんなことより、今愛する人のことを考えないと!家庭は結婚して出来るものではない。一緒に作るものです。」
12月30日は日記帳の最後のページでメモのみ、私の気持ちは書いていなかった。 I君については別の日に、良い人だし楽しいけど「恋の対象じゃない。っていうのはお互い一緒なんでしょうねえ」と記述あり。
そして10年後は95年3月3日。 部屋に泊めたのは近所で飲んでいたら大雪になってしまったからで、当時私は元内縁夫と熱愛中。 日記には「108歳になってもI君にはそういう感情は起きない気がする」だって。
もう寝てるかと思ったI君から返信。3:21。
> 裏返しにパラレルだったの、覚えてる。(略)さんだね。 > だからあのときはおなじだったんだよ、だれかに埋めてほしい穴ぼこの大きさが、きっと。
私は埋めない。
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2005年06月20日(月)
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