無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2002年12月04日(水) 殺伐とした日々/『文章読本さん江』(斎藤美奈子)

 アニメーターの大塚康生氏が平成14年度の文化庁長官賞を受賞されたそうである。
 日本アニメーション史の生き証人である氏が『ルパン三世 風魔一族の陰謀』
(1987<昭和62>)を最後に第一線から退いて、もう随分と時間が経ってしまった。氏のホームページによれば、所属されていたテレコムを1994(平成6)年に定年退職後、近年は専ら後進の育成に励んでおられるようだが、アニメーション職人は死ぬまでアニメーター、という意識が私にはあったので、もう氏の新作が見られないというのは寂しい限りである。同じく定年でリタイアしててもおかしくない宮崎駿が未だに創作意欲の衰え一つ見せてないのにねえ。
 氏の功績を考えれば、こういう賞とか勲章の類は何10個も貰ってておかしくないのである。これまでコツコツやってた技術屋がようやく日の目を見たような印象を受けるのは、もう何十年も大塚康生ファンをやってる身からすれば噴飯ものなのだが、実際、若い人には今一つ大塚さんの業績というものが伝わってないように思えてならないのである。
 大塚さんなかりせば、今の宮崎駿だってありえないんだぞー。宮崎監督の『未来少年コナン』も、『ルパン三世 カリオストロの城』も、作画監督は大塚さんだったんだからなー。
 いや、それ以前に東映動画創世記のころは……って、こういうのがトシヨリの愚痴ってやつか(-_-;)。
 アニメ誌もこういう情報をきっかけにして、大塚さんの特集くらい組んでもいいと思うんだがな。コラム記事程度じゃ、とても大塚さんの業績はフォローしきれない。でもそんなのやってくれそうな雑誌って、今や『アニメスタイル』くらいしかないんだよなあ。……って、まだ続いてるのかなあ、あの雑誌。

 関連情報、というわけでもないが、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』のテレビ放送が来年1月24日の『金曜ロードショー』枠に決まったそうである。「視聴率40%超えを狙う」とは日本テレビ編成局のコメントだが、DVDが普及してるのにそんなに行くのかなあ、と思っててフト気づいた。
 今度の放送は「赤い」のか?
 もしかしたらそれを確かめようと、DVD買ったやつもみんな見るんじゃないかな。まさかそこまで計算してのジブリの作戦?……なんてことはないと思うが、意外とこの40%という数字、達成不可能なものではないかもしれない。
 もっとも、別に40%取ろうが取るまいが私ゃどうでもいいんだけどね。


 しげ、また具合が悪いといって送ってくれない。
 昼寝て夜寝て、どうして具合が悪くなるんだか。しげは私がプレッシャーを与えるせいだと言うが、そのプレッシャーってのは「少しは家事しろよ」って言ってることか?
 そんなん、受験浪人が塾にも通わずウチでゴロゴロしてる時に、親から「少しは勉強したらどうだ」と言われた瞬間、「うるせえな、今やろうと思ってたんだよ。イライラしてんだから声かけるんじゃねえよ!」と身勝手な屁理屈こねてるのと変わらんぞ。
 じゃあ、プレッシャーかけちゃいかんと黙ってたら、少しは何か片付けの一つでもするのか。もちろん、しげがそんなことをしたためしはない。まさしく、屁理屈こねてる甘えたガキと精神構造は同じなんである。
 ここまでになっちゃうと、充分テレビのネタとして使えそうにも思うんだが、どこか「衝撃のバカ嫁! 10年間家事一つしなかった女!」とかいうテーマで面白がって放送してくれるバラエティ番組とかないかな。せめてそれくらいのことででも家計を助けてくれないと、ホントにしげはいるだけで役立たずなんである。


 同僚がまた一人辞める。
 病気が悪化したので仕方がないのだが、実力があるのにそれをひけらかすこともなく、具合が悪くても弱音を吐かない、それでいてムリをしている様子は全くなく、飄々としていてそこにいらっしゃるだけでどこか安心できるような、そんな方だった。ずっと日記を御覧になってる方ならピンときたかもしれないが、映画ファンで、古いドラマの話や「ぶりぶりざえもん」の話題で盛りあがったことのある、あの女性である。
 「全然元気そうに見えるでしょ?」
 と屈託なく仰っていたが、本当はそうとう苦しかったのだろう。最後まで全然普通である。けれど私は返す言葉を見つけられなかった。
 いい加減、上の連中は、才能のある人間を食いつぶしていくような職場環境を改善しようって気はないのか。
 私もとうに労働意欲をなくしている。


 晩飯は「王将」。
 どんどん増える棚のフィギュア、でっかいピグザムが置いてある前に、ちょこなんとワンピースのちび人形が四、五個。「こんなん前からあったっけ?」としげに聞いたら「あったよ」とのこと。別に前より増殖してたってわけじゃないようだ。どのキャラかよく見ようと触っていたら、「盗ったらいかんよ」としげが言う。
 あのな、それなりの社会的立場もあるオトナは万引きなんかしないって(-_-;)。わしゃ小木茂光か(←『OUT』)。こういう何も考えてない発言してるからバカだバカだと言われるのである。言われたくなきゃバカな発言しなきゃいい。少なくともしげの身の回りでこういうバカな発言するやつは誰一人いないぞ。


 帰宅して、今日はアニメ『ヒカ碁』で佐為が消える日だったということに気がついて、慌ててテレビを点けるが、ちょうどエンディングで、肝心なシーンは見損ねてしまった。多分クライマックスだから、作画にも力が入ってただろうに、残念。あともう一回の佐為の登場予定は、第一部の最終回。今度は見逃さないようにせねば。


 斎藤美奈子『文章読本さん江』(筑摩書房・1785円)。
 『文章読本』ではなく、『文章読本』の研究本である。まずはこの着想が素晴らしいね。
 斎藤さんの本は以前『読者は踊る』を読んだことがあるが、そのときも着眼点が面白いな、と感じた記憶がある。
 そもそも、我々日本人はどうしてこんなに「文章が上手く書けるようになりたい」と思うのであろうか? そういうのは学校で教わるもので、何もいちいち「文章指南書」の類を紐解く必要はないのではないか? 
 作者は、100冊以上の「文章指南書」を俎上に乗せ、「名文」への欲求がいかにして日本人の中に形成されていったのかを社会学的かつ心理学的に解題していく。しかもこれが平易な文章で書かれてるものだから、滅法面白いんだわ。

 まず、百花繚乱たる『文章読本』には、「御三家」と「新御三家」が存在する、と斎藤さんは説く。この例え方がキャッチー(古い)。
 ・御三家
   谷崎潤一郎『文章読本』
   三島由紀夫『文章読本』
   清水幾太郎『論文の書き方』
 ・新御三家
   本多勝一『日本語の作文技術』
   丸谷才一『文章読本』
   井上ひさし『自家製 文章読本』
 この選択に異論がある人もあろうが、私は妥当だと思うね。ベストセラーになってるものばかり、ということもあるが、ガクセイへの影響力という点で納得がいくのである。いや、全部読みましたよ、一応ブンガクブ出身なもんでね。
 それぞれの本に斎藤さんが付けたキャプションも面白い。
 「谷崎潤一郎の天衣無縫」ナチュラル志向と言いつつ、矛盾だらけで何が言いたいんだかわからない。
 「三島由紀夫の貴族趣味」芸術家にしか文章は書けないんだと。読本の意味ないじゃん(^_^;)。
 「清水幾太郎の階級闘争」芸術的な文章より実用的な文章のほうが上って、上下の問題じゃないでしょう。
 「本多勝一の民主化運動」ともかく卑屈で神経質である。デンパな文章書きたい人にはお勧めか?(^o^)
 「丸谷才一の王政復古」かな遣いは今さら昔にゃ戻りませんって。
 「井上ひさしの滅私奉公」文章を語るのに初めてディベートとエンタテインメントを持ちこんだけど、くどいです。
 斎藤さんの言ってることを短くまとめるとこんなところか。多少私の感想も入ってるが。

 結局のところ、我々が文章指南書を欲するのは、みんな自分が「文が書けないことはよくない」と思ってるからだろう。
 明治時代の小学生が文章の定型にハマるあまり、花見に出かけりゃ必ず「一瓢を携へて」と書いた、というのは笑い話であるが、このことは、何も今のガクセイの文章力が昔に比べて著しく低下してるってわけでもない、ということを証明している。しかしこういう状況は、「美しい日本語を守ろう」なんて考えてるヒトにとっては実に憂えるべき状況であろう。となれば、そのヒトたちが「このままでは日本人から正しい日本語能力がケツラクしていく。それを看過するわけにはいかない」と一念発起、指南書を書こうって気持ちになっちゃうのも分らないではないのだが、それがかえって結果的に日本人全般に「悪文コンプレックス」を生みつけることになっちゃったんではないか。
 「公文書などもあるのだから、お固い文章も書けないと」という意見もあろう。しかし、今書かれている公文書の生真面目そのものに見える文だって、昔の漢籍のみが文とされていた時代から見たら、全部ハナモゲラなのである。人の書いたものにやたら難癖つけたがるやつは多いが、別に作者はそいつのご機嫌取るために書いてるわけじゃない。そのくらいのことは理解しなきゃ、自分のほうがゴーマンかましてるだけってことになるんだよ。
 著者の斎藤さんが導き出した結論は「文は服だって言ったじゃん。いつどこでどんなものを着るかは、本来、人に指図されるようなものではないのである」。
 全面的に賛成。\(^o^)/

2001年12月04日(火) 「ピー」って口で言わんでも/『ワンピース』21巻(尾田栄一郎)/『うまんが』1巻(新井理恵)ほか
2000年12月04日(月) 仕事休んでマンガ三昧(^_^;)/映画『戦場のメリークリスマス』ほか



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