無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2002年12月02日(月) いつか見殺しにされる予兆/DVD『助太刀屋助六』/DVD『真夜中まで』

 唐沢なをき氏のホームページ『からまん』に衝撃の告知。と言ってもファンでない人にはどーでもいーことかもしれんが。
 今月から来月にかけて唐沢さんの新刊がドドッと出るので楽しみにしているのだが(『電脳なをさん』も出るぞ!)、文春漫画賞受賞作の『電脳炎ver.4 ウィン版・マック版』(小学館)も1月末にいつものごとく90%同じ内容で同時発売。ところが、この巻を最後にマック版はなくなってしまうと言うのである。
 理由は誰でも想像がつくと思うが、マック版とウィン版の売り上げ比が、ウィンユーザーとマックユーザーの割合と同じ状態になってしまい、マック版を販売したても全くペイしなくなってしまったからだとか。
 唐沢さんは「マックユーザーの方には申し訳ないのですが、時世時節とあきらめてください」と苦衷のコメント。もう心からのマックユーザーだから、その悲しみがこちらまで伝わって来そうな感じなのだが、あまりにも当然過ぎる結果にかえって微笑ましさを覚えてしまう。申し訳ないんだけど。
 それはさておき、唐沢さんの新刊『バラバラくん』、2冊セットでもう出てるはずなんだけど見当たらないなあ。どうして唐沢さんの本はこうも毎回見つけづらいんだか。


 風邪ますます悪化、職場に休みの連絡を入れる。もう有休残ってないってのになあ。
 朝のうちに医者に行きたかったのだが、しげが起きて来ない。一人で自転車漕いで寒空を病院まで走ってく元気はなかったので、まあ、昼頃には起きるかと待ってたが、1時を過ぎても2時を過ぎても起きて来ない。
 おいおい、夕べ寝たの3時ごろだろ? まる12時間も寝るか?
 と思ってたら結局起きてきたのが4時過ぎ。「医者に連れてって」と頼んだらまた露骨にイヤな顔をされる。「一人で行きゃいいじゃん」とか言うものだからマジ切れする。
 ムリヤリ起こして「寝させない気か!?」とか下らん文句を聞くのがイヤだったから寝かせといたのに、ここまで自分勝手なこと抜かしやがるか。
 「いいよもう。おまえが具合が悪くなったとき、今度はオレがほったらかしてやるからな」
 「前からほったらかしとるやん」
 「勝手に記憶を捏造するな!」
 自分が病気の時に私から食事を作ってもらったり薬飲ませてもらったりしたことはキレイサッパリ忘れてやがるんだから、ニンゲンじゃないよな。しげに言わせれば、「オレだってアンタのために薬買って来てやったり、食事作ってやったことはあった」と主張するんだろうが、そんなのは全て「私が頼んでさせた」ことだ。自分から動いたことなんてないじゃないか。何も言われなくても食事作ってやったりした私と比較できるものではない。
 もしもしげが本気で私の心配してるんなら、今日だってせめて昼には起きて食事くらい作ってるはずである。今日も昨日と同じく、私は自分で咳とくしゃみとめまいに悩まされながら冷凍そばを自分で作って食ってたのだ。買い置きがなきゃ飢えてるって。
 しげがどんなに言い訳しようと、しげに他人を気遣うだけのメンタリティは存在していない。結婚するとき「もう少しマトモな人間になる」というのはしげが私とした約束だったのだが、その約束を未だに果たそうとしてはいないのだ。
 こいつ、カルネアデスの舟板じゃないけど、何か危険に晒されたらなんの遠慮もなく私を犠牲にして自分だけ助かろうとするんだろあなあ。そんな外道相手に犠牲になってやらなきゃならないかって気もするけど多分その場になったら私って「いいよもう」とか言って諦めて舟板から手を離しちゃうんだよ。
 ……やっぱり人生捨てないと結婚なんてできるもんじゃないね。


 寝てるだけだと退屈だし業腹なので、買ったまま見損ねてたDVDを続けて見る。ゆっくり休んでろと言われそうだが、自分でメシ作ったりして、ゆっくり休めないからこんなことでもしてストレス発散させてるのよ。

 まずは1本目、DVD『助太刀屋助六』。劇場公開時も行きたかったんだけどなあ。あっという間に打ち切りになるんだもの(^_^;)。
 岡本喜八監督、あのトシであの言語不明瞭な状態で、果たして映画がマトモなものになるのか心配だったんだけど、意外や意外、往年の冴えはさすがにないものの、よくぞここまで作れたなあってくらいの佳作。この程度のレベルの時代劇が常時作られていけば、時代劇ファンももっと増えると思うんだけどね。
 ともかく設定が面白い。
 出だしのナレーションがその世界観を見事に表していて、しかもテンポも抜群、これぞお手本、てな感じなので、ちょっと長いが、そのまま引用させて頂く。

 この男、別に気が触れているのではない。
 少しばかり足りないのでもない。
 いい若い者が子供相手に遊んでいるように見えるのだが、どうして本人はいたって大マジメ。世のため人のため、そしてなによりもまず自分のために、かくのごとく忙しいのである。
 この男、その日の得物は、手近にあった物干し竿だ。刃物は嫌いだ。抜いたこともない。いったい何事、と思った時には、こりゃもう敵討ちと決めていた。
 義を見てせざるは何だっけ、首を捻った時には物干し竿を絞る。

 この男、十七歳の時に故郷を飛び出して江戸へ向かったが、途中、ひょんなことから敵討ちに巻きこまれ、助太刀をやってしまった。その時の、何とも言えないいい感じ、何しろ侍の野郎がオレに頭を下げやがった。この俺にだ。これが病みつき。その上、無理やり俺の手に何やら握らせやがった。ズシリ。滅法いい感じ。これがまた病みつきになって以後七年。
 敵討ちを探しながら、流れ流れた……。

 流れ流れて七年目の春、ある敵からさる敵討ちに示談を、そう、示談。つまりは、金銭的話し合い方を持ちこまれた。
 十五両、大金である。でも、あぶく銭のやらずぶったくりでもある。第一、花の武士道はどうなる。
 え? そこまで地に落ちた?
 まあいいか。
 
 と、この男、いつしか鼻っ先を、生まれ故郷の上州に向けていた。
 とは言っても、誰かが待っているわけでもない。
 待っているとすれば、五歳のとき、三十五歳の若さで亡くなったお袋の墓だけだ。
 まあいいか。

 この男、人呼んで、いや、人は別に呼ばないが、助太刀屋助六。
 助太刀屋助六、粋なヤクザのつもりである。


 いかがですか、この名調子と反骨!
 私は黒澤明の映画を貶めるつもりは全くないんだけれど、あの人の映画はやっぱり「侍」の視点で描かれてるんだよね。私ゃもう先祖代々職人の家系だからさ、好みから行けば圧倒的にアルチザン・岡本喜八に軍配が上がっちゃうのよ。
 「義を見てせざるは何だっけ」、侍の理屈なんかどうだっていい。
 何が気持ちいいかって、「侍の野郎がオレに頭を下げやがった」。
 そう、江戸の昔っから、武士道なんて「地に落ち」てたんだ。
 「助太刀屋助六」と御大層に名乗っちゃいるが、「人は別に呼ばない」無名の人。これぞ岡本喜八の主人公だね!
 世の中ってさあ、バカでトンマでモノ知らずのお人好しな名もない庶民が作ってんだってこと、何の衒いもカッコつけもなく、サラリと粋に語れる人って、なかなかいないんだよね、黒澤さんの名作『七人の侍』ですら、「勝ったのは百姓だ」とか、いかにも「思想」が入ってるようなセリフを語らせてるじゃん?(間違ってもあれは「百姓賛歌」なんかじゃない。勘兵衛の淋しげな口調を思えばただの「侍の愚痴」に過ぎないんじゃない?)
 「まあ、いいか」はもう「思想」自体を否定してる。
 庶民には右だろうが左だろうがシューキョーだろうが、思想なんていらないんだよ。

 また、このファーストシーンに敵や敵討ちの役で懐かしい顔が続々出てくること。しかもナレーション通り、侍の胡散臭さが露なワザトラシイ演技(←誉めてます)をしてくれるもんだから嬉しくってもう。
 天本英世、伊佐山ひろ子、佐藤允、竹中直人、嶋田久作、田村奈巳。みなさんほかの監督の映画に出てる時よりも三倍増しくらい生き生きと演じていらっしゃるんだもの、岡本監督のことがもうめっちゃ好きなんだなってことが伝わってきて、心がほんのりと暖かくなっちゃうのよ。

 でもねえ、この素晴らしいナレーションを誰がやってるかって、岸田今日子なのよ。
 え? 予告編じゃ春風亭小朝ですごくよかったのに。ちゃんとクレジットまでされてたのに、なんで変更になったの?
 岸田さん、暗いし括舌も悪いし(前記のナレーションは耳コピーなんで、間違ってるかもしれない)、軽さが全く出せてない。どう考えてもミスキャストじゃない?

 しかも何がいけないって、肝心の主役がねえ……。
 真田広之、悪くはないよ。今時あれだけ動ける俳優さんっていないのは解るからね。けどやっぱり「軽さ」がない。この映画、1969年のテレビ時代劇『仇討ち・助太刀屋助六』のリメイクだそうだが、オリジナルではジェリー藤尾が演じていたとか。未見だけど(DVD化できないのかな?)そっちのほうが圧倒的に合ってたんじゃないかなあ。
 実際、こういうお調子者のキャラなら、昔だったら『ちゃっきり金太』あたりを見れば解る通り、エノケンが演じて然るべき役どころなんである(昔過ぎるって)。いや、少なくとも美男じゃマズいって判断はしておくべきでね、映像特典で竹中直人が「もっと出たかった」発言をしてるのは、「自分が助六を演じたかった」と読み変えられるだろう。でも竹中さんじゃ真田さんほど動けないからムリ。喜八組なら、かつての砂塚秀夫ならもうドンピシャの適役、けれどもうおトシだからなあ……。
 真田広之の父親を演じる仲代達矢もどうにも「重い」。これも役柄として強そうに見えちゃダメなんだよ、誠実ではあるけれど成り上がりでしかも好きな女ほったらかしてたような男なんだからさ。小林桂樹にやらせとけばいいのに、仲代さんをどこかにキャスティングしたかったための失敗だろうね。この映画に仲代さんの出番はもともとないよ。
 「映画の演出はキャスティングでその八割が決まる」というのは市川崑の名言だけれど、その点で行けば岡本喜八映画の最大の欠点はそのキャストだ。大部屋俳優に至るまで味のある役者の多かった二十年、三十年前に比べて、最近の岡本作品は「ほかに誰かいなかったのか」と言いたくなるキャストが目立つ。
 その中で、唯一、「このキャストはいいな」、と思ったのが助六に思いを寄せる棺桶屋の娘、タケノ(山本奈々)だったりするんだが、これは私がロリコンなせいではない(^o^)。池脇千鶴をちょっと泥臭くしたような(失礼)、『赤ひげ』の二木てるみにちょっと似た(古いね)風貌で、美少女然としてないところが時代劇向きでリアルだなあ、と思うわけ。岡本喜八の映画って、『独立愚連隊』でも『殺人狂時代』でもすぐに「荒唐無稽」と評されてたけど、設定は確かに非現実的でも人物描写は決していい加減じゃなかったのだ。現実の人間を見て御覧よ、まさしく「事実は小説よりも奇なり」で、「こんなやつ本当にいたのか」ってくらいキテレツでヘンなやつって見かけるじゃん。フツーに見える人間の中にだって狂気はいつだって潜んでる。そこを常に捉えて描いている喜八映画を指して、単純に荒唐無稽と言い捨ててしまう批評がいかにくだらないか。
 だからこそこの映画、どうしても「惜しい」って感覚がしてしまうんである。これが三十年前に作られてたらもっともっと面白いものになってたろうにねえ。
 あ、あと山下洋輔の音楽はいいですね。カット割りがだいぶ「甘く」なってるのを相当手助けしてます。

 
 DVD『真夜中まで』。
 真田広之二本立てだな(^o^)。敵が岸辺一徳ってとこまで同じ。五社協定があった昔ならいざ知らず、今こんなにキャスティングが似通っちゃうってのは、ホントに役者払底だし企画者のアタマの悪さも表してる……と言いたいところだけれど、こちらに関してはキャスティングの違和感は殆どなかった。和田誠監督のこれまでの『麻雀放浪記』『怪盗ルビィ』『怖がる人々』といった作品も佳作だったけれど、今回が一番の出来じゃないかな。
 その理由は何と言っても上映時間1時間50分と、映画内の時間経過を一致させたその演出によるだろう。冷静に考えれば、ジャズの公演と公演の合間に起こった麻薬密売事件を、単に事件に巻き込まれただけのジャズ・トランペッターがヒロインと一緒に解決しようとするって設定に無理はありまくりなんだけれど、この演劇的な同時性がその欠点を結構補っている。

 もっとも、真田広之が何度かバックレようとするたびに、ミーハーなファンの柴田理恵に追いかけられたり、ホームレスの名古屋章に説教されたりして結局ヒロインのミシェル・ヨーのところに舞い戻ってしまう、という展開は和田監督ふざけすぎ、と思わなくはないが。
 いやね、毎回チョイ役で意外な役者を使って映画ファンの気をそそるってこと和田さんやってるけど、これ一般的には殆ど意味ないんだわ。和田さん自身が映画ファンだからそれやりたくなるのわかるんだけど、内輪受けに過ぎないんでね。
 例えば小松政夫さんがマジシャン役でチラッと出てくる。ワンシーンだけでセリフも全くないんだけれど、これで喜んでるのは私くらいのものだろう(^o^)。少なくとも、「小松政夫がワンシーン出てるんだよ!」と言われて「じゃあ劇場に行って見ようかな」と思う人って、世間にはそうそういないと思う。ましてや「三谷幸喜が映画マニヤの役で出てるよ」なんて言っても「ふーん、それで?」と言われるのがオチだね(^_^;)。「意外な人が特別出演」みたいな形で宣伝されても、実際に映画見た時に「で、どの人が意外な人だったの?」って思われたら逆効果でしょ? これ、役者さんに対して失礼になるんじゃないかと思うんだけど。
 で、実は今回は和田さんも反省したのか予告編からちゃんと誰が特別ゲストで出演してるかクレジットされるんだけれど、なぜか佐藤仁美の名前だけ忘れている。……やっぱ、すごく失礼じゃん(-_-;)。
 配役ってさ、やっぱり「その人がその演技をするのにふさわしいかどうか」って観点でマジメにキャスティングしてほしいんだよね。だから実は、ゴジラ映画やなんかの特撮映画で、昔の作品に出てた人をチョイ役で使ったりするのも実はあまり好きではないのである。

 ジャズ演奏のヨシアシはあまりよくわかんないんだけれども、多分真田広之は自分では吹いてないと思うな(^o^)。

2001年12月02日(日) ナンビョーY子さんのHP/『新世紀エヴァンゲリオン』7巻(貞本義行)ほか
2000年12月02日(土) 『BLOOD』=『プロジェクトA子』?/アニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』



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