無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2001年08月22日(水) オタクの花道/同人誌『オトナ帝国の興亡』ほか

 わあ、ようやく体重が80キロを切ったぞ(ひと月ほど前にもそんなこと書いてたような気が……)。
 結局、今回のこの入院、増えた体重をなんとか元に戻しただけって感じになりそうだなあ。
 朝食はロールパンにコーンポタージュ、ロースハムとカリフラワーのサラダ、牛乳。パンに付いてるジャムまでカロリー控えめ。アンパンとか菓子パンの類は一切出たことがない。糖尿病、栄養士さんも「食べちゃいけないものはありません」と言ってるクセに実際の規制は多いのである。


 枕元に置いてある本が30冊を越えていることに気づき、こりゃ一度自宅に持って帰らないと、明後日退院する時に、荷物がムチャクチャ重くなってしまうことに気づく。慌てて担当の先生に外出をもらって、午後から一時帰宅することにする。糖尿病教室もあるし、禁止されるかと思ったらあっさりと許可が出た。今日は薬剤師さんの授業なのだが、別の日に個人授業を受ければよいそうである。
 わあい、女医さんと個人授業♪
 いや、コトバのヒビキはいいが、別に楽しいことはない。この『個人授業』って単語に反応しちゃうのも映画ファンならではかなあ。あるいはフィンガー5の歌のほうかな。

 授業を休むというのに、明後日渡されるはずの教室の修了証、今日のうちに貰ってしまう。……もし明日と明後日も教室休んじゃったらどうなるんだろうね。

 しげに連絡を入れるが、留守。多分、自動車学校だろう。
 一応、「あとで帰るよ」と伝言だけを吹きこんでおく。
 ……どうせ部屋の片付けもしてないだろうから、帰りつくまでに、少しはやっといてくれればなあと期待するんだけど、こういう期待通りにしげが動いたことは一度もない。
 ないならなぜ期待するか。
 ……ったってねえ、するしかないのが、「ふうふ」というものなのよ。
 少しでも持って帰る本を増やそうと、読みかけの本などを慌てて読む。

 朝の食前の血糖値が88、昼食前が141。外出すれば運動量は多くなるから、夕方の血糖値は結構平常値に近くなるんじゃないかと期待する。
 昼食は、あじの塩焼き、はじかみ、金平ゴボウ、梨。付け合わせの「はじかみ」って何だと思ったら生姜のことだった。
 このトシになっても、知らない言葉ってのはあるものなのだよなあ。だから若い人たちのことを「近頃のやつらはコトバを知らない」なんて言っちゃうのは、天に唾する行為であったりもするのだ。

 帰宅した途端にしげが風呂場から出て来て「きゃー、えっち」。
 んなもん、もう毛穴の奥まで見飽きて見飽きて、鼻毛も立たんわ。帰るなりしょーもないことやってんじゃね〜。b(`m´#)
 期待を見事に裏切ってくれて、洗濯は全くしてないし、風呂場は汚れたまま、洗面器はゴミがこびりついててお湯を汲むことすらできない。トイレは言わずもがな。いくらなんでも汚しすぎである。明後日帰るまでに少しは掃除しとけよ、と言うが、聞いたか聞いてないか、ブスッとするばかりで反応しない。こういう時はたいてい聞いてないんだよなあ。
 なにやら紙を見せるので何かと思ったら、これがしげの自動車学校の適正検査。
 ……なんだ、このCとD判定の群れは(・・;)。
 唯一、Aがあったなと思ったら、「自己中心性」。注意力も集中力も記憶力もなく、他人を思いやらずに自分勝手な言動を繰り返す最低最悪の人格、と判定が出てしまったのだ。
 「なんだよ、これは大丈夫なのかよ」
 「へへへー」
 へへへーじゃない! マジで人轢きかねんぞ、おまえ。
 
 この日記のUPも、この間見舞いに来たときには、二、三日うちにやっておくと言ってたくせに、全く手をつけていない。さすがに腹が立って、今すぐやれ、と言うと、「私に寝るなっていうの!?」とまた文句。
 こいつが寝てないなんてことあるわけないのだ。と言うか、こいつの口癖は「今日は12時間も起きている」だから、同情なんかしてはいけないのである。しかし、しげは自分が悪いと決まってるときですら、どうして口答えするのだろう。ますます怒られることは解りきってるのにねえ。

 ふと、傍らを見ると、なにやら小包が。
 こ、これはもしかして。
 うわあ、山本弘さんからの『オトナ帝国』同人誌だぁ!
 届いた日付を見ると、17日。この間しげが見舞いに来たのは18日……。隠してやがったな、しげのアホウが。みんなに買ってもらったらその代金、しげの小遣いにしてやろうと思ってたけど、もうやめた。
 今更また怒る気力もなかったし、ともかく現物を見てみたかったので、早速袋を開けて中を見る。
 表紙は防衛隊のコスプレをしたしんちゃんとひまちゃん、そのバックにオトナ帝国を象徴するかのような太陽の塔っぽい影。そして万博の写真のコラージュ。絵は眠田直さん、やっぱりセンスがいいよなあ。

 タイトルは『オトナ帝国の興亡』。ページをめくるといきなリあずまきよひこの絵が……って、ああ、こりゃ山本弘さんのパロディマンガだ。……そうかあ、ちよちゃんも『オトナ帝国』見て泣いたのか。って視点が違うな。
 目次を見てみると、参加者はみな「オタクアミーゴス/裏モノ会議室」の常連さんばかりだが、意外と数が少ない。唐沢俊一さんが参加表明されていながら寄港されていないのはお父上のご逝去があったとは言え、残念である。
 シュミ特(懐かしい響き!)の『オトナ帝国大辞典』、こんなに参加者が少ないんだったら、もっとネタを送っときゃよかったと後悔。どうせ誰かが書くだろうなと思ってたから、書かなかったネタは多いのだ。「ケレル」とか「よしだたくろう」とか、誰も書いてないとは思いもしなかった(ボツになった項目は掲示板のほうに書いてますのでご参照下さい)。こうたろうくんに「銀玉鉄砲のあたりは『ガントレット』だよ」と元ネタ教えてもらってたのもあったのになあ。
 「ネギ」のネタも、原作でしんちゃんがシロにネギをやるネタがあって、それを踏まえてのギャグなんだけど、そこまで指摘されていない。どうも参加者のみなさん、原作までフォローしてるわけじゃなさそうなのだ。やっぱり「オトナが見るもんじゃない」と今まで思ってたとしたらもったいない話である。

 巻頭の評論はエロの冒険者さん。初めは同人誌に参加されることを躊躇されていたけれど、どうしてどうして、巻頭を飾るに相応しいパロディ評論だった。
 前半は子どもの作文調で書かれているのだけれど、そのスタイル自体が、あの映画を楽しむ目がオトナとコドモとでは乖離していることを表している。ああ、この手があったなあ、と思うとちょっと悔しい。オチが困惑した先生の投げ遣りな感想と言うのもうまい。
 後半は、熊さんとご隠居の会話風、語り口は面白いのだが、いろんな感想を詰め込みすぎて、やや論点がボケた印象があるのが惜しかった。
 と言うか、「チャコが実は不治の病なんじゃないか」とか、「チャコは病気のせいで家族から邪険にされていて家族というものを憎んでいた」って設定、せっかくそういうのを思いついたのなら、それでコントのシナリオを一本書いたほうがずっと面白くなったと思うのだ。
 それでも、ほかの参加者の方々には悪いが、エロさんの評論が頭一つ抜き出ていることは事実なのである。ミもフタもないこと言っちゃうと、ほかの方々の評論、結局は「ああ、そう、アナタはそう思うわけね。よかったよかった」で終わっちゃうものなのだ。それはほかの方々の意見がつまらない、ということではなく、「評論」という形式自体、もともと読者に訴えかける力が弱いからにほかならない。
 同人誌の大半がつまらないのは、世界が閉じているからである。原典を知らないと分らないのでは読者は退屈するばかりだ。パロディという形式が有効なのは、原典を知らなくても楽しめるからだ。言いかえれば、原典を知らないと楽しめないパロディは、パロディとしては不完全である(もちろん、知っていればもっと楽しめる)。

 ……なんだかなあ、ネタがかぶる可能性はあるんだから、もう少しバラエティに富んだ語り口で、例えば『オタク学入門』のように、作画的な側面、科学的な側面で図解するものがあったりとか、あってもよかったんじゃないかと思うんだけどねえ。
 さすがに山本弘さんは、具体的なセリフとシーンのやりとりの組み合わせを提示して、『オトナ帝国』のホラーな側面を浮きあがらせる評論を書かれている。そう言った「具体性」がないと、読むほうはキツイのだよねえ。
 不遜な言い方で申し訳ないが、事実として、みなさん、まだまだ「ウスイ」なあと思ってしまうのである。「他の人がどんなことを書くのか」予測をしてそのウラをかく、くらいの気持ちがあってもよかったんじゃないだろうか。

 私なんか、同じネタ思いついたやつが誰かいないかとドキドキものだったのに。同人誌で読む機会のある人も少なかろうからネタバラシしちゃうけど、私の書いた小説、基本的には「オトナ帝国の創始者は岡本太郎だった」「チャコは実はホムンクルスだった」「ケンとチャコは実は昔、ひろしに出会っていた」の三点だけでできあがっているのである。もう、昔の同人誌マンガにはよくあった、その後の『未来中年コナン』とか、『2001年のドラえもん』(来ちゃったけど)とか、その手のノリなわけ。でも、アホな設定ではあるけれど、もっとアホなのを思いつく人がいないともかぎらない。
 で、もう一つだけ、これだけはほかの人には書けない、というものをぶちこんだ。
 作中のケンとチャコの祭りでの会話、だいぶアレンジしてはいるものの、まんま、私としげの会話なのである(多分しげ本人は忘れてるだろうが)。今まで恥ずかしくて一切書かなかったが、「自分の世界から出ようとしない」チャコの姿、思いきりしげにダブって見えてたし、20世紀博作ってしげを世間から守ってやれるものなら、そうしてやりたい、そう思いながらあの映画を見てたのだ、私は。
 でなきゃ泣くか。
 以前、よしひとさんから「有久さんの脚本に出てくる女の子、みんなしげさんに見える」と言われたことがあるが当たり前である。私はしげに出会って以来、しげ以外をモデルにして戯曲や小説を書いたリしたことはない。男は全て私であり、女は全てしげだ。それが私の創作スタイルなのである。
 ……あまり書くと、しげがヨロコブからこのへんでやめとこう。パロディと言えど、それが自分の作品である以上、自分や身内を出さなくてどうするというのか。吾妻ひでお曰く、「自分の出ないマンガはマンガじゃない」のである。

 今度の同人誌で、一番嬉しかったのは、あとがきで山本弘さんに、「設定の穴を想像で埋めるのはファンの特権であり正しいアニメファンの道」と、フォローを入れてもらっていたことだ。
 今回、パロディ小説を書きはしたが、ボツられはしないかなあ、と随分不安になっていたのだ。夏コミのカタログに夏目房之介・米沢嘉博両氏の対談が載っているのだが、「著作権のことを、パロディを書く上でも真剣に考えなければならない。原典への『愛』があるから、という言い訳は成り立たない」とあったこと、これをどこまで考慮すればいいか、シロウトの私には見当もつかなかったからだ。
 実は私の小説、「万博」「岡本太郎」「ひろし」という単語、一切使っていない。ムードを出すための効果と思う人もいるかもしれないけれど、ただ単に著作権違反が怖かっただけなのです。……評論だと「批評は自由だ」と反論できるかもしれないけれど、小説だとムズカシイかな、と思った結果なのでありました。
 でも堂々と万博の写真使ってたし、この同人誌、監督の原恵一さんにも送られるみたいなので、杞憂だったかな、とも思うのだけれど。

 あ、書き忘れてたけど、『オトナ帝国』のこぼれ話や、眠田直さんの過去のクレしん映画のレビューもあって、初めての人も安心(笑)な造りになってます。


 日記のUPを終えて、しげ、疲れたのか寝る。
 「あとで帰るんやろ? 8時になったら電話して」
 「どうして?」
 「仕事に寝過ごしたらいけないから」
 ……今、2時だけど。6時間寝て、目覚ましでも起きられないってか。
 ああ、やっぱり性格検査通りのやつだよ、こいつは。


 病院に帰って、血糖値の検査をしたら、前回は90まで下がっていたものが今日は100。……ストレスが血糖値を上げるって、本当なんだなあ。
 夕食はあなごと夏野菜の和え物、ささみの和風サラダ、メロン。心なしか、一つ一つの味が微妙に苦い。

 テレビ、『目撃ドキュン!』、いま日本に急増中とかの「パラサイト夫婦」の特集。要するに両親のもとに同居して働かない夫婦ってことなんだけれど、別に夫婦に関わらず、男も女も、誰かに寄生しようと虎視眈々、狙ってるやつってのはいくらでもいるよなあ。「専業主婦」も「だめんず」も、たいていそんなやつだ。ウチのしげだってほとんどサナダムシだし。
 これで私が痩せないというのは理不尽だリムジンだ(c.田中邦衛)。

 東京のこうたろうくんに電話、同人誌を入手したことを伝える。
 「おまえさんのがなかったら、寂しい同人誌になったと思うよ」なんて言ってくれて、泣けるじゃないか。誤植や言葉の誤用が多くて恥ずかしいんだけど(「コロリと言われて」なんて書いてるけど、「ケロリ」の間違いなんだよね〜。お恥ずかしい)。
 「エロさんところにも感想を書き込みしてみたいんだけどねえ、面識ないとやっぱり書き込みにくいよ」
 まあ、そうだろうねえ。
 この日記にも細々ながら、毎日20人程度の方が来られてるけれど(入院してから数人に減ったさ)、書きこみまではしてくれないものなあ。というか、男で中年でテメエの女房のことばかり書いてるやつの日記の掲示板に、何書けってんだよって思う人が大半だろうけど(^.^;)。
 でも、悪口でもいいから、なんかあったら初対面の人も歓迎します。どうぞご遠慮なく「こんにちは〜」だけでも書いてみてくだしゃんせ。


 吉岡平『真・無責任艦長タイラー3 邂逅編』(エンターブレイン・ファミ通文庫・670円)。
 アニメ版のお色気看護婦さんのハルミもよかったけれど、小説版のクールなアサシン、ハルミもいいよなあ。
 今のところ、オリジナル版の1巻を、3巻程度に引き伸ばしている計算になるけれど、ダレた感じがしないのは、小説家としての吉岡さんの腕が上がったってことなんだろう。
 でもイラストはキャラの描き分けが今イチで、都筑和彦さんや平田智弘さんのほうがずっとよかったなあ。

 マンガ、島本和彦『吼えろペン』2巻(小学館・560円)。
 島本さん(あ、いけね、炎尾燃だ)のプロダクション、前の『燃えよペン』のころとスタッフが総替わりしてるみたいだけれど、新スタッフの中で文句なしに面白いのは、「子ども番組からすべてを学ぶ男・大哲」。
 「マンガ家をやめて、体を鍛えてヒーローになるか? いや、ヒーローにはいつだってなれる!! 弱くなった肉体を改造して強化すればいいのだから!!」
 現実と空想の区別がつかないやつって、やっぱり世の中には必要だと思うぞ。シュリーマンの例もあるし。
 ……ニセ炎尾燃ってのは富士原昌幸がモデルだろうか。実際、島本さんより面白いもの描くこともあるけど(笑)。

 マンガ、山田風太郎原作・石川賢作画『柳生十兵衛死す』2巻(集英社・530円)。
 うわあ、破軍坊(『伊賀忍法帖』のキャラね)、わずか6ページで使い捨てちゃったぞ。もったいないなあ。続々とキャラクターを出してくるのはいいけれど、収拾がつかなくなりゃしないかなあ。前作の『魔界転生』ではムリヤリ自作の『魔獣戦線』にリンクさせちゃったけど、今度も突拍子もないこと考えてそうな気がするなあ。
 石川さん、『ゲッターロボ』や『虚空戦記』の描き足ししてたころはちょっとセンに力がなくなってたけど、少し調子が戻ってきている。師匠がまたぞろ『キューティーハニー』描いてハジさらしてる分、石川さんにはがんばってもらいたいよなあ。

2000年08月22日(火) とんこつラーメンは臭い/『ここだけのふたり!!』8巻(森下裕美)



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藤原敬之(ふじわら・けいし)